【第一回:私はいかにしてビッチになったか~蜜柑の恋 地元編】
アキはどこまでも優しかった。
忙しいスケジュールの中でも「会いたい」と言えば会いに来てくれた。今だったらキャッシュで買えるけれど、当時15歳の私にとっては高額で手も出ないようなブランド物のアクセサリーや財布をプレゼントしてくれた。放課後、時間が合えば車で迎えにきてくれた。そんな年上彼氏がいることはステータスでもあったが、物理的で典型的な愛情表現よりも、私は彼が「対等に」私を扱ってくれる、それが何よりうれしかった。
25歳と若いものの肩書きは“経営者”であるアキにとって、高校一年生の私なんて子供だったはずだ。なのに彼は、私の人生について同じ目線に立って助言をしてくれる人だと私は感じていた。
自分は親に敷かれたレールの上でしか生きられないと思っていた。母に言われるがまま勉強に励み、偏差値の高い高校に入学した。けれど今度は偏差値の高い大学へ進学するための勉強が始まる。私はプレッシャーの渦に取り巻かれているような気がしていた。そんな私に、彼は教えた。
「今大事だと思うことを精一杯感じろ」
「今守るべきものを感じて決めるのはお前だよ」
繰り返し彼は私に語りかけた。
好きな音楽を聴かせあったり、古い漫画を教えてもらったり、行ったことのない場所に一緒に行った。二次元好きで、初恋は『ファイナルファンタジーⅧ』の主人公のスコール・レオンハート、中学までは同級生の男子に恋をしたとしても遠くから眺めるだけで話しかけることもままならなかった私にとっては、全てが初めての経験で、アキとなら何をしても心臓が高鳴った。
若かったせいもあるのか、私はどっぷり彼に依存し、親から携帯電話への着信があっても無視して、朝までアキと一緒にいることが増えた。もちろん家族との仲は険悪になったし、女友達と過ごす時間もなかった。自らアキ以外の居場所を失っていった。