『ときめきメモリアル』(以後ときメモ)。それはギャルゲー、そして乙女ゲーの元祖にして、恋愛シミュレーションゲームというジャンルを未だ強く牽引する一大シリーズである。
そしてそのシステムは、無条件に周りからモテまくる昨今のエロゲーやラノベ(メディアファクトリー文庫が顕著です)とは一線を画す厳しいものだ。『ときメモ』上では、主人公の学力・運動能力・才能・容姿などというステータスを徹底的に上げることがすなわちモテであるという。ある意味現実以上に明確にシビアな格差を強いられるものだ。
RPGなどの醍醐味の一つに、低いレベルの段階でも戦略によって高いレベルの敵をじわじわ倒す、という楽しみ方があるが、ここにはそうしたものはなく、ひたすらレベルを上げる必要だけがある。「学問に王道なし」ならぬ、「ステータス上げにチートなし。」だ。
もう一つ、恋愛シミュレーションゲームには大きな特徴がある、それは箇条書きされた各キャラクターの特徴が、そのキャラの人物像すべてを物語るということだ。プレイヤーがあらかじめ予測出来る範疇でしか、キャラクターは変化しない。つまり、すでに判りきったイメージを攻略する、シミュレーションの焼き直しをしていくことなのだ。
また、このシリーズには男性キャラが女性キャラを攻略する『ときメモ』、女性キャラが男性キャラを攻略する『ときめきメモリアルGirls Side』(以後GSと表記)ともに、シリーズ通してハーレムエンドや同性との恋愛はない。一対一の異性愛のみが、目指すべきゴールである。
徹底的なエリート成果主義と保守的な恋愛観による性差ファンタジーが描かれる『ときメモ』や『GS』が、恋愛シミュレーションというジャンルで最も売れたシリーズであるというのは、日本の恋愛倫理・道徳観念をまさに象徴しているのかもしれない。
今回は『ときメモ』および『GS』シリーズのキャラクター造形を通して、日本の恋愛シミュレーションゲームにおけるジェンダーを考えてみようと思う。