前回、元カノとのデート後(「終わらない恋と始まらない僕の人生」) 、京都に戻るまでの数日間、僕はというと担当編集者の部屋で無為徒食の日々を送っていました。暇を持て余し、冷蔵庫にあった食材でカレーをつくっていたら、ちょうど彼が会社から帰ってくる、といった按配の半同棲生活を送っていたわけです。
担当編集者「いい加減帰ってくださいよ!」
困惑気味に抗議してくる彼を無視して、カレーをよそい、冷やしておいたビールなんかをすすめます。
僕「そういや今日さぁ、昼間、この部屋で自殺しようかと真剣に悩んだよ。君に迷惑かけて悪いけど……」
担当編集者「いや、ほんと迷惑ですよ……せめて連載が終わってから死んで下さい。というか僕が死にたい……」
僕「いや、待て……よくないんだ、こんなこと言ってたら。君、幸せが逃げるぞ!」
はぁ?という顔をみせた彼に、よくよく事情立てて説明してやることにしました。
元カノからつきつけられた三カ条
先日のデートの際、帰り際に元カノのミョンちゃんからある条件を突きつけられました。それが以下の三カ条なのです。
・嘘や誤魔化しはやめて、正直になんでも話すようにする。
・ネガティブな口癖や、頻繁につくため息をやめる。
・女々しい態度をやめて、引っ張っていくような頼り甲斐のある男になる。
ミョンちゃんは「次会うまでに全部直ってなかったら、すぐ帰るからね」と言い残して、去っていってしまったのでした。
というわけで、僕はこの長年のどうしょうもない癖を矯正する必要に駆られていたのです。
そう、僕というのは油断するとすぐに、「自殺したい」「死にたい」「憂鬱だ」「もう生きていてもしょうがない」「僕はゴミだ」「無価値だ」と口走ってしまう人間なのです。それも、その頻度というのが尋常ではありません。大体、五分に一回くらいは言っている感じです。あまりに頻繁にそんなことをこぼすので、一緒にいる女性からは「耳障り。耐えられない」と言われ、それが原因でフラれたこともしばしばありました。高校時代は厳正な期末テスト中に「殺してくれ……」、就活の際には面接室の前の廊下で突然「もう嫌だ!」、会社員時代も重役とすれ違いざまに「虚無~……」とこぼす始末。最低です。実家でもずっと言っているので、母親なんかは既にうんざりしていて、たまに烈火の如くキレだしたりします。
それはミョンちゃんも同じでした。
外でデートすることなく、部屋で二人でいることばかりだった僕たち。狭いワンルームの部屋で、延々とネガティブワードを連発する僕に、ミョンちゃんは幾度となくブチギレました。「死にたい死にたいって、薄っぺらいよ! 本気なの?」「冗談だよ。ただの口癖。意味ないんだ」「じゃあ、黙ってよ!!」ミョンちゃんは真剣に怒って、それで僕の部屋からバタン! と出て行ってしまうということが過去に何度かあったのです。
口癖を矯正しようと悪戦苦闘する無職
たしかに、ずっと一緒にいることを考えると、僕みたいなネガティブ過ぎる口癖を持つ男は嫌だろうなと思います。そこで、彼女に前述の三カ条をつきつけられたその日から、僕は早速改善に取り組むことにしました。
飛び降りたい、首吊りたい、生まれてきたのが間違いだった、人類は必ず滅亡する、といったネガティブワードが口から漏れそうになるたび、咄嗟に言いかけた言葉を途中でキャンセル。かわりに「うわあああああああ!」とムンクの『叫び』みたいな顔で声にならない叫びをあげていたら、「近所迷惑ですよ!!」と担当編集者がキレだしました。短気な人間ですね。
担当編集者「……奥山さん、それ、近い将来、頭が壊れちゃう気がする。僕だってネガティブな口癖ありますし、そんなの禁止されたら生きていけないよ」
僕「じゃあ、これで元カノに振り向いてもらえるかもしれないとしたら、やらない?」
担当編集者「……やるに決まってるじゃないですか!!」
僕と同じく元カノを未だ引き摺っている担当編集者はそう叫びました。
平日深夜、河川敷で花火するアラサー男性二人
コンビニでさらに酒を買って、まだ6月というのに何故か男二人で花火をすることになりました。薄い色の夜に、パチパチと音を立てて弾けていく火花を、呆けたように眺めながら、僕たちは会話を続けました。
僕「はぁ……実際さぁ、もう一生ため息ついちゃいけないのかって思うと、息苦しくて死にたくなるよなぁ……」
担当編集者「そんな極端な話じゃなくて、頻度の問題でしょう。大体、はぁ……奥山さん変わる気あるんですか?」
僕「難しいよなぁ……結局さぁ、男二人でため息ついてるのが……はぁ……」
担当編集者「はぁ……一番落ち着きますよね……憂鬱だなぁ……」
結局最終的には、担当編集者の彼にまでため息がうつってしまいました。
はぁ……………………………………………………死にたい。
そこで今回の相談です…………。
今回の相談「やめられない口癖や癖をやめるにはどうすればいいですか?」
はぁ……しかしですね……もうずっと長い間、多分中学でいじめられだしたあたりからだと思うんですけどね……背中を丸めて死んだ目で地面を見つめながら歩き……自分の心の中の、憂鬱な気分とか、自殺願望とか……そういうの吐き出すのがすっかり癖になっていてですね……ある意味そういうことに、救われてきた側面も僕にはあるんですね……はぁ……。
なんかですね、ネガティブな言葉を口にしないと自分の心の中にどす黒い感情が溜まっていって、頭が狂いそうになるんですよ。だからつい口にしちゃう。他人と一緒にいると、自分を偽りすぎて、嫌になってくるときがあるんです。吐き気が止まらなくて、目眩がしてくるんです。死にたいって言葉が頭の中に溢れてくる。誰に言うともなしに、それを漏らすことで、僕は精神の安定を保ってきたんです。自分の中のもやもやした感情に、死にたいって名前をつけてあげるだけで、安心出来た。それを口にするだけで、なんとか生きていけるような気がしてたんです。
いや、そもそも……みんなだって、暑いときには暑いって言うでしょう? 疲れたなら疲れた、楽しけりゃ楽しいって言うし、幸せなら手を叩くじゃないですか。一緒ですよ!! 死にたいから死にたいって言って何が悪いんですか!? ……。
でもねぇ……わかってるんですよ。このままじゃいけないってことくらい。だってそうでしょう? 誰がどう見ても危険人物ですからね……はぁ……。だからですね……真剣に直したいんですよ。でも……どうやっても直らない。はぁ……死にたい。
でも、誰かと一緒にいたいって思うなら、こんな僕のちっぽけな絶望なんかに付き合わせちゃいけないなって思うんですよ。だからこれを良いきっかけに、変わりたいなって思うんですよね。
だからどうか……みなさんお願いです……何か良い方法を教えて下さい。なんでもいいんです……ネガティブな言葉にかぎらず、口癖とか癖とか、一旦身に染みついてしまったものを矯正する……何か良い方法とか上手な誤魔化し方を、教えてもらえないでしょうか……よろしくお願いします………………………………はぁ……。
奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。自転車の運転が下手でたまに転倒する。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/