『はじめての不倫学』ーー不思議なタイトルです。不倫を学問するとは、これまで訊いたことがありません。しかも副題は、「『社会問題』として考える」です。辞書によると社会問題とは、「社会生活に支障をきたすような、社会の欠陥・矛盾・不合理から生じる各種の問題」。すなわち本書は、〈社会に害をなす不倫〉を学ぶために書き下ろされた1冊です。
著者はの坂爪真吾氏は、一般社団法人ホワイトハンズの代表として、重度身体障害者に対する射精介助サービスを提供したり、セックスワーカーの“性の健康と権利”を考えたりと、社会への貢献度がたいへん高い活動をされています。そんな坂爪氏による、「既婚の男女が、不倫の誘惑に抗うためにはどうすればいいか」という問いかけから本書は始まり、なぜ不倫=社会問題なのかを解き明かし、不倫を“インフルエンザのような感染症”にたとえて、その感染予防を模索します。
パートナーの、あるいは自分自身の不倫を予防したいという人は少なからずいるでしょう。でも、ほんとうに予防できるの? という疑問もあるはずです。人と人との出会いも、そこで生まれる感情も阻止できるものでないことは誰もが知っています。
結論からいうと、日ごろから性の現場を多く見聞きし、不倫についても取材を重ねられた末にたどり着いたのであろう坂爪氏の予防策は、「学問」としては有意義なのかもしれませんが、不倫をする・するかもしれない、もしくはパートナーが不倫をする・するかもしれない人たちにとっては、理解も共感もしにくいものでした。
その予防策を論じる前にも、「不倫を学問する」ことそのものへの違和感を刺激される要素が、小石のようにたくさん落ちています。可能性を含めると、不倫とまったく無縁という人はひとりもいません。すべての人が何らかの形で「不倫の当事者」になり得ますが、そんな自分たちにとっての不倫と、ここで学問される不倫は別物なのではないか。そう思わされるのです。本書をこれから読もうとしている人が、そんな小石につまずかないように、違和感ポイントを順を追って紹介します。なお、【ネタバレ】を含みますので「内容を知りたくない!」という人はご遠慮ください。
不倫はほんとうに社会問題なの?
不倫という病に罹患すると、社会的なリスクを大きく背負うと坂爪氏は指摘します。不倫の発覚→離婚は、たしかに典型です。そしていったん離婚すれば経済状況や心身の健康状態の悪化につながり、引いては“女性の貧困”“子どもの貧困”“ひとり親家庭の貧困”などなど、近年ニュースでもよく採り上げられる社会問題にさらされやすくなる、という説です。
だから不倫を予防しましょう、結婚生活を維持しましょう、というわけです。しかし、ここで考えるべきは、離婚して単身者やひとり親家庭になっても生活水準を保てるよう社会の仕組みを変えていくことでは? 平穏な結婚生活は「貧困を避けるため」に営まれるものではありませんし、離婚のリスクファクターは不倫以外にも数多くあります。「不倫の予防→貧困問題の緩和」とは、飛躍しか感じません。強引な“不倫=社会問題化”に、のっけから違和感を感じてしまうのです。