次作の執筆のために、私は3カ月近く韓国に滞在していた。滞在費を浮かせたかったし、韓国語の勉強もできるからと、地方都市にある大学の寄宿舎で生活していた。街に鉄道はなし、交通手段はバスかタクシーのみ。だからおもにタクシーを利用していたが、何度も運転手から言われたセリフがある。
「おばさんなのに、なんで大学にいるの?」
日本なら即苦情レベルの大きなお世話だ。あとは道を歩いていると、「おばさん、●●に行くにはどうしたらいいの?」「ちょっと、お母さん!」と、突然声をかけられることが複数回あった。ロクに韓国語をも話せない私に、なぜ彼らは声をかけるのか。それ以前になぜ、見ず知らずのあなた方に「おばさん」「お母さん」と呼ばれなくてはならないのか。言い返す語学力のない私は、無視すること以外できなかった。
韓国では結婚していれば若くても、していなくても30代になると女性を「アジュンマ(おばさん)」と呼ぶ傾向がある。おそらく「オトナ女子」などといった概念はない。平子理沙や梨花は言うに及ばず、井川遙も深田恭子も柴咲コウも、韓国人からしてみりゃ「おばさん」なのだろう。そしておばさん=女終了のネガティブイメージが強いのだと、ひしひしと肌で実感した。
韓国女優は、年を取れない
だからなのか、韓国のアラフォー女優は年齢にあらがって「若くカワイイキャラ」を演じることが、日本以上に多い。
たとえばハン・ガイン(33歳)は30歳を過ぎても少女役を演じているし、37歳のハ・ジウォンは、6月末から韓国で放送されていたドラマ『君を愛した時間~ワタシとカレの恋愛白書』では美脚を惜しみなくさらし、恋に揺れる女性を演じていた。モテモテでキラキラで、ベッドシーンもイヤらしさ皆無のカワイイ役だった。40歳になったチェ・ジウはこの秋のドラマ『二度目の20歳』で38歳の女子大生を演じ、作中ではなんと、女子高生姿まで披露していた。む、無理がありすぎる……。
なのに無理を通せば道理が引っ込むとでも言わんばかりに、韓国ではアラフォー女優もとにかく、「若く・かわいいワタシ」を演じさせられている感がある。
しかし、そんな風潮にあらがう女優がいた。現在42歳のチョン・ドヨンだ。不幸続きのシングルマザーを演じた映画『シークレット・サンシャイン』で、2007年のカンヌ国際映画祭主演女優賞に輝いている。文句なしにアジアを代表する女優だ。
彼女は、10月3日から日本で公開される映画『無頼漢 渇いた罪』で、借金と男に悩むルームサロンのマダム、ヘギョンを演じている。ルームサロンとは韓国の個室型クラブで、時に売春行為もアリ。ソウルのカンナム(江南=ソウルの高級地区)あたりに行けば、サイボーグ美女が接待してくれるルームサロンがひしめいている。韓国の風俗のなかでは「上の方」だが、ヘギョンの店「マカオ」は江南ではなく、郊外にあると思われる。かつ場末の雰囲気が漂っていて、店の景気は限りなく悪い。
ヘギョンはかつて投資会社専務の愛人だったけれど、部下だったパク・ソンウンという男と愛し合うように。そのパクが人を殺して逃亡したことで、彼女は警察からマークされながら、パクの戻りを待つ女となる。株で失敗した約5000万円の借金があり、おまけにパクは逃亡中にカジノで有り金をすってしまうような、絵に描いたようなダメ男。
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