ファッション誌などでもはや定番化しつつある『愛されメイク』。
意中の男に振り向いてもらうための『愛され』。
すでに付き合っている彼の愛情をさらに強化するための『愛され』。
職場のおじさん上司にも同僚にも先輩女性にも嫌われない『愛され』。
合コンでもっとも引きの強い女になる『愛され』。
見出しを変え、ほんのちょっとアイラインやチークの入れ方を変え、毎月のように次から次へと『愛されメイク』特集が組まれます。
私も日本の雑誌・広告・テレビの裏側で仕事をする現役メイクアップアーティストですから、これまで沢山の雑誌などで『愛されメイク』を担当しました。確かに『愛されメイク特集』の号って売上がいいんです。だから定期的に、流行も織り交ぜながら様々な『愛されメイク』記事がつくられていきます。
でも……身も蓋もないことを言うようだけど、メイクを変えたからって、昨日まで『愛され系』じゃなかった女性が、いきなり『愛され女子』に変身すると思います? そもそも『愛されメイク』って何なのよ?
今回はそんな『愛されメイク』記事がつくられていく舞台裏を、皆さんに紹介していきたいと思います。
愛されメイク企画の作られ方
インターネットが普及し、「あれ何だっけ?」と頭に思い浮かんだ次の瞬間には、検索エンジンでキーワードを調べて正解にたどりつけるようになりました。誰もが当たり前に物事を調べ、基本的に無料で情報を閲覧できる時代です。
だから雑誌などの紙媒体では、①お客さんに興味を持ってもらう→②手に取ってもらう→③購入という3ステップのために、作り手は本当に必死になって奔走しています。
で、『愛されメイク』特集が売れるというデータがあるなら、そりゃあ作るでしょ。だって売れなかったら廃刊ですもの。
定期的に『愛されメイク』と銘打ったページが作られるのは、売れるから。これが大前提です。
さてここで、私たちメイクアップアーティストの仕事の流れを説明しておきましょう。
まずその企画を編集者から提案され、共に内容を打ち合わせし、構成を練っていきます。
いくつかの雑誌で仕事をしていますが、基本のページづくりは、流行のファッション(これはアパレル業界で決まります)を、通勤スタイル、女子会スタイル、休日スタイル、合コンスタイル、デートスタイルといった場面ごとに紹介していくか、エレガントスタイル、キュートスタイル、セクシースタイル、クールスタイル、ナチュラルスタイルなどのイメージごとに分けるか。どこも同じような構成で正直つまらなくもありますね。でも、それが一番読者にとってわかりやすいようで、需要があるので仕方ありません……。
で、大体のページ構成が決まったら、私は各カテゴリーごとにヘアメイクの提案をする役割。
例えば、流行ファッションがあるように流行ヘアメイクも存在します。
流行は主に、春夏(Spring/Summer)と秋冬(Autumn/Winter)に分かれ、アパレルブランドが約半年前に発表します。トレンドカラーや柄、シルエットやアイテムが全身コーディネートされて紹介する場所が、パリやミラノなどのコレクションですね。
ここで、人気ブランドの起用モデルたちが編み込みヘアーをメインでしていたら「今年のトレンドヘアーは編み込み」、みーんな真っ赤なリップを付けていたら「トレンドメイクは真っ赤なリップ」、というように“決定”しちゃいます。
ヘアメイクアップアーティストは、ここでの情報をもちろん把握し、そしてこのトレンドに自分のオリジナリティをプラスして、その時々の流行メイクをモデルさんの顔に施します。
でもね……ただ単に「今年の流行ファッション&メイク」のままじゃ、読者にとって魅力的ではない。だって、読者は別に、ファッションやメイクの業界で仕事をしているわけじゃないから。最先端の流行ものを纏った女性になりたいわけじゃなくて、身近な友人や恋人に「いいね」と思われたいという気持ちで、自分が日常で取り入れやすいファッションやメイクの情報を求めている方がほとんどです。
だから雑誌の編集者は考えるのです。
インパクトのあるキャッチフレーズを!
最近流行った“おフェロメイク”も、それが美しいとか可愛いとか本当にフェロモン溢れるやり方かなんてことはさておき、業界的にはよくぞ! とスタンディングオベーションしたいくらい素晴らしいネーミングです。
『愛され』も、そうしたキャッチフレーズのひとつでしかありません。
キャッチフレーズに合わせ、普段のメイク方法をちょっと変えてみる(たとえば眉をふんわり優しげな書き方にするとか、アイラインを0.1mm伸ばすとか)と……ほーら、こんな簡単にイメージチェンジ!
『愛されメイク』と謳っていても、
女子が好きそうな響き、ニュアンスにちょっと色付けしているだけで、
愛される保証も、その根拠も何もないの。
そういえば、使用したメイクアイテムを紹介しているのも、雑誌に載ることで宣伝効果があったり、そこの雑誌とメイクブランドの繋がりだったり、大人の事情が絡まりあっています。
本心では「このヘアメイクなら、ここのブランドのこの番号のリップが使いたいなー。そうしたら完璧!」と思っていても、他社メイクブランドとのコラボだったりすると、「しょうがない。あのブランドのリップよりは全体の完成度が劣るけど、これを使うしかないか」となります。もちろんそんなに大差はないので、一般の方が見てもわからないし、不自然さもありません。というか、不自然にならないように、与えられた条件の中で最大限頑張るのが私たちの仕事ですけれど。
業態・職種にかかわらず、仕事をしている方ならわかると思いますが、お金をもらって仕事をしているってことは、そのメディアに対してお金を払う側があってのことなので、クライアントの意向に合わせたりもするのです。読者が雑誌を購入してくれるその金額だけでは、ファッション誌は成立しない。それくらい作るのに経費がかかっていますからね。
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