かつてトップグラビアアイドルとして活躍していた森下千里が小説家デビューしたと聞いて、もはや伝説的となった「女豹のポーズ」を思い起こすとともに驚愕した。妖艶な表情で鑑賞者を挑発するようでいて、スレンダーで引き締まった身体のおかげで、めちゃくちゃエロいのにめちゃくちゃ健全、という矛盾した印象を与える魅惑のボディをグラビアでお目にかかることができなくなって久しい(そして、寂しい)。
しかし、特技のゴルフでローカルTV局のレギュラー番組を持っていたり、ピラティスの先生の資格を取得していたり、と「健康路線」で活動している彼女のここ数年の仕事ぶりは、過去に彼女の写真に魅了されたファンのひとりとして「とてもクレバーだなぁ」と感心させられていた。
ゴルフに関しては、なんというか、川村ひかるにおける競馬みたいな、親父趣味に積極的にコミットすることで可愛がられる戦略を感じさせる。それに、ピラティスにしても(渡辺満里奈とかぶっているけれども)グラビアという身体を使った仕事をしていたわけだから、自分の身体のメンテナンスに関心が高いのは当然で、それを上手く発展させている。ブログの更新もマメだし、真面目な人なんだろうな、と思って、グラビアに出ていなくても応援したくなるタレント心の第1位、って感じだったんですよ。
ずっと彼女の活動をウォッチしていたからこそ、彼女が「小説を書いた」って、意外過ぎて驚いたのだった。
もちろん、同じ業界のタレントでは吉木りさ、今野杏南、杉原杏璃といったグラドルが小説を発表しているから、もはや珍しいことではない(ただし、今野と杉原の作品は、ゴーストによって書かれている匂いが濃すぎる)。けれども森下千里のデビュー作『倍以上彼氏』は、日本の現代文学を支える文芸誌『文藝』の河出書房新社から刊行されているところからして、これまでのグラドル小説家たちとは一線を画している。
しかも、デビュー作・書き下ろしで400字詰め原稿用紙800枚の長編ですよ。荒俣宏か、京極夏彦かよ、という規格外ぶりだ。「ゴルフとピラティス」のイメージから大きく跳躍した彼女の新たな活動に期待しながら本書のページをめくった。
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