週末、バイト帰りに、高校時代の友人に呼び出されて飲みに行きました。
彼、N山くんはいわゆるオタク友だちで、就職するまで彼女いない歴=年齢だったのですが、就職後、整形をして出会い系にハマり常時同時並行で5人くらいと付き合うように。さらに何故か投資用不動産を買い、今は一戸建てを何件か所有するオーナーです。ちなみにこちらから話しかけない限り一言も声を発さない。口を開けば人の悪口。初体験はタイでニューハーフと。目つきは悪い。一見地味で目立たないのですが、とにかく稀に見る変人で、嫌な奴です。
彼は東京に住んでいるので、半年ぶりくらいの再会でした。適当な居酒屋のカウンターで焼き鳥なんかつまみながらハイボールで流し込みます。
N山「なんか俺ら、高校のときから何にも変わらないよな。話題とか」
たしかにそうです。僕もN山も、あまり年相応の老け方をしていません。童貞臭いといえばそうだし、アラサーにもなって未だにへらへらぼっちゃん(©町田康)、学生ノリを引きずっているようなところがあるのです。
N山「東京で就職? もうちょい早く言えばうち貸したのにさ」
とはいえ僕に比べればN山の方が大人なのかもしれません。岡山まで投資用の家を買いに行く途中に京都に寄ったとのことでした。なんか大人です。
僕「この三年、ほとんど誰にも会わずに毎日小説書くの、ほんと辛かったんだ……」
僕はタバコの煙でも吐き出すように言い、うなだれてカウンターに突っ伏しました。
母校の学園祭に行った無職
翌日、休みだったので相変わらず何をしていいのかわらかない僕は、ダイエットのために散歩していました。すると、何かライブでもしているような、アンプで増幅された音が聞こえてきました。その音の方に向かって歩いて行くと、僕の母校にたどり着きました。本当に偶然だったのですが、学園祭の真っ最中だったのです。
そういや僕は学生時代、ゆっくり学園祭をまわった記憶がありません。
というのも、所属していた映画研究会の上映会は、普通にしていても誰も見に来てくれないのが常でした。そこで、学園祭に来ている人に声をかけて仲良くなり、「映画とか好き?」と騙して映画研究会の上映会場に連れてくるといった客引きに忙しかったのです。別に金をとっているわけでもないので、上映にどれだけ人が来ても良いことなんて何一つないのですが、それでもせっかく作った映画は見て欲しくなるのが人情で、自分の中では毎日100人近い人を連れていくのが学園祭開催中のノルマになっていました。なんとなく、ナンパ師の先輩に負けたくなくて、必死で女の子にも声をかけていました。今から思えば全く必死になるようなことではないのですが、当時は一生懸命で、ミョンちゃんと一緒にまわることもせずに、ひたすら見知らぬ人に話しかけ続けていたのです。
大学生でにぎわう人混みにぼんやりと紛れて歩き、まぁもう二度とこんなところに来ることもないだろうなぁと思ったりしました。
僕がいた頃と驚くほど何も変わっていません。女装するのが名物だった体育会系のサークルは、10年経ってもまだ女装していました。プロレス研究会も軽音サークルもいつもの場所でパフォーマンスを繰り広げています。
ダイエット中だから別に出店で何か食べるようなこともなく、若者に混じって軽音サークルの内輪ノリライブで縦ノリする気にも勿論なれず、そんなにこれといって行きたいところがなくて、結局、自然と足は映画研究会の教室に向かいました。
相変わらず立地の悪い、校舎の隅の隅の方で、ひっそりと上映会をやってました。上映の説明をしてくれた女の子に、「や、知ってるから大丈夫。8年前の会長だから」と先輩風をびゅーびゅー吹かせ、「うんこ食べる映画知ってる?」と聞きましたが、知らないと返されました。「今サークルにいる一番年上の先輩って誰? 」と尋ねると「マックス先輩!」知らねぇよ誰だよマックスって……レッド先輩みたいな感じか……?
中に入ると相変わらずつまらない映画を上映していました。学生サークルの映画って、驚くほどつまらないものです。ぽつりぽつり入ってくるお客さんも、小首をかしげながら五分くらいで退場していきます。それはとても懐かしい光景でした。
スクリーンでは、男が突然走り出し、と同時にデビッド・ボウイの曲が鳴り出しました。とくに意味のないレオス・カラックスのオマージュで、いかにも偏差値65くらいの私大生が撮りそうな自主映画でした。誰が見てもつまらない。
それを見て僕は泣いてしまった。
こみあげてくるものがあった。もう僕は歳をとってしまった。いつまでも大学生のつもりだったけど、僕はもう大学生じゃないんだ。そんな、本当に当たり前のことがこみあげてきて、涙がとまらなくなった。
上映中の教室には、客はもう僕しかいなかった。他には、サークルの人間ばかりがいて、何やらお喋りをしていた。そのうち、信じられないことに、ホットプレートで肉なんか焼きだした。廊下から漏れてくる光を遮っていた暗幕が、何かの拍子に突然剥がれ落ちた。でも誰も拾いに行かない。教室はうすぼんやりと明るくなった。一気にぼやけたスクリーンではまだ、名前の知らない大学生が夜の京都をフランスでも走るみたいに走り続けていた。肉が焼ける匂いと煙が漂っている。ここに僕の居場所はない。なんでそんな当たり前のことが悲しいんだろう。
ぼんやりと僕は自分の大学生活を振り返りました。それは失敗の連続でした。どこで間違えたんでしょうか。まず、映画研究会に入らない方が良かった、と思う。文学部に進んだのも失敗なら、小説なんか書こうと思ったのも失敗だった。そしたら……オクナくんにもミョンちゃんにも出会ってないんだろう。別の人生があって……それは楽しかったんだろうか? ミジメではなかった、ような気はするけど。
でもやっぱり、僕はもう一度大学生活をやり直すことになっても、その失敗を選び続けるんだと思います。一つ一つの失敗で、今の僕が形成されているのだから。その失敗も、僕の一部なのだから。
さすがに一時間も色んな自主映画を見せられていたら、お腹が一杯になってきました。自主映画を見るなんて大学卒業して以来です。
教室の外に出ると、男子学生が僕に声をかけてきました。
「俺、うんこの映画、噂だけなら聞いたことありますよ」
卒業して8年もたっているのに、まだ知ってる奴がいた! 「食べた奴、こないだ結婚したけどね」学生たちはなんだか優しくて、しばらく僕の話し相手をしてくれたりなどしました。そろそろ帰ろうとしたとき、「ところで卒業してからは、何されてるんですか?」と聞かれてしまいました。なんて答えればいいんだろう? 無職? フリーター? フリーライター? どれもしっくりきません。僕は一体……何者なんでしょうか? 「あはは、僕は一体何をしてるんだろうね?」と言い残し、僕はその場を去りました。
帰り際に図書館の横を通りがかると、そこに10年前の僕とミョンちゃんが見えました。大学生だった僕たち。よく大学図書館でデートして、外の喫煙所で何本もタバコを吸った。将来どうするとか、自分はこんな人間だとか、話せば話すほど心は離れていくのに、何本も何本もベンチで煙草を燃やした。
大学の門を出るとき、ああ、僕はもう本当に大学生じゃないんだな、と肌で感じました。
三十代って、なんなんですか?
一体、どうすれば大人になれるんでしょうか?
うまい歳の取り方が、わからないんです。
連載タイトルのとおり、僕も28、立派なアラサーです。そろそろ三十代が迫ってきました。というのに、服の感じも喋り方も、笑いのセンスも何もかも大学生のまま時が止まっているのです。
三十代って、なんなんですか?
みなさんは、どんな風に、歳をとっていく自分と折り合いをつけ、新しい自己イメージを獲得しましたか?
そして僕は……どうすればいいんでしょうか? 何を誰をどんな感じをモデルにしたらいいでしょう?
ちゃんと歳をとるって、どういうことなんでしょうか?
考えや経験を、ぜひお聞かせください。よろしくお願いします。
現在の身長体重
身長:172cm
体重 64.7kg(元旦のバイト中に原因不明の嘔吐を繰り返し、前回から1.8kg痩せた)
目標体重60kg
現在の貯金額
3万円
目標金額30万円