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多発するキャンパス・レイプ 「レイプの首都」と呼ばれたアメリカの大学街で起きた普遍的な性暴力を巡る問題

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『ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度』(亜紀書房)

『ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度』(亜紀書房)

 モンタナ州第二の都市、人口7万人の街ミズーラ。ここにあるモンタナ大学のアメリカン・フットボール(アメフト)チームの選手らが引き起こした複数のレイプ事件が地元紙に報道され、大学はレイプ・スキャンダルで大騒ぎとなった。2012年には、数十件のレイプ事件対応に不手際があったという疑いで米司法局による、モンタナ大学、ミズーラ市警やミズーラ郡検事局への捜査が入ったことで、より大きな注目を集め、ミズーラは「レイプの首都」などと呼ばれるようにもなった。

 9月に翻訳出版された『ミズーラ』(亜紀書房)は、ミズーラで起きたレイプ事件の被害者、関係者、裁判の展開から見えてくる、アメリカにおけるレイプ神話や対応する大学、警察、司法の問題を、ベストセラー作家のジョン・クラカワーが詳細かつ丹念な取材に基づいて描くノンフィクションである。アメリカではここ5年ほど、ミズーラなどでのレイプ事件がきっかけとなり、キャンパス・レイプが深刻な問題として認識されるようになっていた。本書も2015年に出版されると大きな話題を呼び、ベストセラーとなった。

 私は同じ州内の、ミズーラから車で3時間ほど離れたボーズマンにあるモンタナ州立大学の教員である。ミズーラのモンタナ大学と、ボーズマンのモンタナ州立大学は同じモンタナ州立の大学システムに属しており、いずれも州内で随一の規模を誇る総合大学だ。アカデミックな意味でも、アメフトなどのスポーツにおいても、ミズーラのモンタナ大学の最大のライバルがボーズマンのモンタナ州立大学という関係性にある。あらゆる意味で似た大学であり、本書に描かれたキャンパス・レイプをめぐる問題は、私自身の大学でも起きうることだ。だがモンタナ州で特有な出来事でもない。アメリカのどの大学や街でも、あるいは日本でも起きている、普遍的な性暴力をめぐる問題をえぐり出している

ミズーラでのレイプ事件の普遍性

 本書の英語版のタイトルは『Missoula: Rape and Justice System in a College Town』、直訳すれば、「ミズーラ:ある大学街で起きたレイプ事件と司法制度」となるが、日本語版の副題は「名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度」となっている。ここで付け加えられた「名門大学」という言葉は全く不必要だろう。「ミズーラ」がアメリカのどこにでもある大学街で、モンタナ大学もごく普通の州立大学で、なんら特殊なことはないというのが重要な意味を持つからだ。

 「レイプの首都」とまで呼ばれたミズーラだが、実際には「ミズーラはこの国のレイプの首都ではなく、むしろ実際には、性的暴行の発生率が全国平均よりわずかに低い」(475-6)という。本書を読むと、これでもかこれでもかというほどに、次々に悪質な性的暴行事件が起きているという印象を受けるが、実際これでも平均より少ないくらいなのだ。

 もちろん、ミズーラという土地柄も関連はする。例えば、人口7万人の小さな大学街であることから、レイプをでっち上げたなどの被害者非難の噂話が広がりやすい。「他の誰もが事情を知っている小さな街と感じられる」(240) と被害者の一人がいうように、被害者がなおさらに辛い状況に置かれるという面はあるだろう。

 また大学のアメフトのチーム(グリズ)の持つ意味合いが非常に大きいという面も無視できない。選手は街のヒーローであり、大学にとっても、市にとっても、人気のアメフトチームがもたらす経済効果は絶大だ。結果、選手らは大学や市民から守られ、特権意識を持つようにもなる。さらにクラカワーは触れていないが、モンタナ州内で法科大学院を持つのがミズーラのモンタナ大学だけであり、結果として法曹関係者がモンタナ大学出身者で占められてしまう傾向も影響しているのではないかとも思う。多くの市民が大学やアメフトチームを守りたいのだ。このような大学街は全米のどこにでもあり、大学やそのスポーツチームがその街や市の主要な収入源として経済効果をもたらすというのもよくあることだ。

 そしてモンタナ大学は、突出してレイプ事件の対応に問題があった大学でさえもない。性的暴行やセクシュアルハラスメントなどに関して、教育改正法第9編(Title IX)の規定に基づき、連邦政府が大学の取り扱いに不手際があったとして捜査を行なったケースは349にものぼっており、そのうち解決したのは57件にすぎない。この調査対象になっている大学は、アイビーリーグなどの私立大学や規模の小さいリベラルアーツ大学、州立大学からコミュニティカレッジに至るまであらゆる大学が含まれている。本書に書かれていることはミズーラのモンタナ大学だから起きたことではないのだ。

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ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-12)