1977年に創業したオリエント工業。性処理だけを目的とした“ダッチワイフ”ではなく、「心の安らぎ」を得られる女性像“ラブドール”を創り続けています。今回は、アートギャラリー・アツコバルーarts drinks talk(渋谷区)にて開催されている、オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」(5/20~6/11)で、オリエント工業の歴史を感じてきました。
▼オリエント工業の精巧ラブドールは、人間の女体とどう違うのか
▼皮膚の赤み、陰影、シワも再現。繊細な職人技が光るラブドールの「仕上げ」とは?
40年の歴史が凝縮された空間
会場には十数体のラブドールと様々な表情とメイクが施された頭部が展示されています。ドールとはいえ、精密な造りの女体に囲まれると何だかドキドキしてしまいます。
基本的にタッチNGですが、1体だけお触りOKのラブドールがあり、ピタっと吸いつくような気持ちいい肌触りを体感できます。女性は「わぁ~い!」と触りにいきますが、男性は遠くから眺め、徐々に近づき、おそるおそる触る……そんな光景が印象的でした。
創業当時からの歩みを、年表とともに代表的な作品が並べられているのですが、素材や造形の変化を感じることができます。
今の主流の素材はシリコン。ボディには骨格や関節が入っているため色々なポージングができますが、当初は、マネキンのような風貌で、カッと見開いたこの表情。存在感が凄すぎて、背中を向けて立っていても彼女の視線を感じるほどでした。
表情や体型も、様々なタイプが登場しています。
左の「やすらぎ」シリーズは、実在する女性から顔もカラダも型をとって制作されたもので、肉感的の美しさが魅力のドール。右の「アンジェ」シリーズは、オリエント工業の造形師がイメージして創りあげた作品。スレンダーで理想的なボディとなっております。えぇ、理想です。
ソファに横たわる可愛い女の子。近づいてみると、バイブ、ローター、ディルド、TENGAなどと戯れています。
この色使いが可愛すぎるせいか、楽しそうな表情のせいか、こんなにも大人のオモチャが集中しているのに猥褻さを微塵も感じません。
いくつも展示されているラブドールの中でも、「かなりの時間と手間をかけた」という作品がこちら。
「蘇生」と題したこちらは、ライトアップされぶくぶくとエアレーションされている水槽の中に、酸素ボンベ(?)を咥えた1体のラブドール。「感じ方は人それぞれ。多くは語らないので、感じてください」とのこと。
酸素を必要としないはずのドールが酸素を吹き込み、命が宿っているように映ります。映画『空気人形』をふと思い出しました。
遊び心も忘れない、ラブドール
右の胸を揉むと、左の胸からお酒が出てくる「パーティードール」。2014年に登場しているドールですが、さらに進化を遂げて、胸を揉んでいる最中は声が出るようになったそうです。広報の方いわく「昼間は聞きづらいような声ですが……」。
さっそく、オリエント工業・土屋日出夫社長が実践してくださいます。「あ~ん、優しく揉んでね」「こんなのはじめて」「とっても上手ね」「もう夢中になっちゃいそう」「あ~ん、もうやめちゃうの?」と色っぽい声も聞こえます。オフィスに1台、いかがでしょう。仕事になりませんね。
目立ったところにあるわけではないのに、目を引いたのは、「開運の尻」。
土屋社長が「ジョーク要素を取り入れたものも創りたい!」と希望して完成したもの。「恥ずかしい……」と照れる土屋社長はお茶目です。お賽銭を投げ入れたあと、指を挿入するというもの。何だか願いが叶いそうな気がします。
40周年を記念して出版された『LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN』(小学館)は、写真家・篠山紀信が撮影したオリエント工業製品の集大成写真集。ラブドールが(?)死を迎えるまでの人生をカメラで捉えた144枚。
とてもドールには見えないような躍動感や憂いをひめた表情に、引き込まれます。記念展には、写真集のモデルを務めたラブドールも展示されています。
ラブドールを「性欲処理のための人形」と認識している方は多いでしょうし、実際にそのような使い方をしても何ら問題はないわけですが、それだけの製品ではないこともまた、この展示に足を運べば伝わるはず。生身の女性の代替品としての愛玩人形ではなく、愛すべきひとつの芸術作品としてのラブドールがここにあります。