「いい男がいない」と愚痴る女性が多いように、「いい女がいない」とぼやく男性も同様に存在しています。そして、「自分の理想とする女性がいないなら、自分で作ってしまえばいい」と考えた男の物語も古今東西。
光源氏しかり、マイフェアレディしかり、経済的な余裕のある年配男性が、若く、か弱く、無知な女性を育てる、というストーリーは幾度となく使い古されてきました。そんな題材を“伝説のドM変態”と称される文豪・谷崎潤一郎が描いた古典的作品『痴人の愛』はこれまで3度に渡って映画化されています。今回は、1967年に公開された、譲治役を小沢昭一、ナオミ役を安田道代が演じた作品をご紹介します。
理想の女性を育てたい男
主人公の河合譲治(31)は、真面目だけが取り柄の電気技師で、同僚からは堅物で真面目な人間という評判を得ています。女性の影が微塵もない譲治ですが、実はカフェで一目ぼれした給仕の女の子・ナオミ18歳(原作では15歳)を引き取り、自身の理想の女として育て上げるために“同居”という名の“飼育”をしています。ナオミの実家は貧しく、譲治の申し出にも厄介払いができたと二つ返事で引き渡したのです。
譲治は「教育し、立派な女になったら結婚してもいい」とナオミにピアノやイタリア語を習わせます。一方で、譲治はナオミと一緒に風呂に入り、ナオミの体を洗ったりもします。美しく育っていくナオミを見て、「君は僕の理想の女になってきた」と大満足。譲治の言う「立派な女」とは、美しく、教養やセンスのある「知的な女」だったはずが、結局は肉体の魅力に翻弄されてナオミと入籍することに。
甘んじて飼育される女
さて、一般的な18歳の女性にとって31歳の男性なんて「オジサン」に分類されるでしょうし、恋愛対象になることは少なく、飼育なんてもっての外。なぜナオミはこの状況を甘んじて引き受けているのでしょうか。
それは、ナオミには他に行く宛がないからです。貧しい実家に出戻ったとしても窮屈な思いをするだけですし、自立できる仕事もありません。譲治もそれを充分理解しているので、ナオミが反抗した時には「あの汚い家に帰るか、え?」と脅すことで服従させていたのです。
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