どんな病気や手術でもそうですが、100人いれば100通りのケースがあり、同じ疾患の経験者であっても理解・共感し合えるとは限りません。
私が子宮内膜症の疑いがあると診断された10年ほど前(まだブログがさほど普及してなかった時代)に、自分が体験している未知の何かについて言語化してくれたものを一行でもいいから読みたく、女性疾患経験者の手記を何冊も手に取りました。
自分が共感できる闘病記に巡り合えた人は幸運です。同じ疾病や手術であっても、当事者の状況や捉え方次第で経験は千差万別だからです。私の場合、自分にすごくフィットする闘病記は1冊あったかな? というくらいでしたが、それは本が悪いのではありません。どんな本にも、ターゲットとなる読者層が存在し、作り手はそれらの人々に1番響くよう制作します。私が読んだ10数冊の闘病記のターゲットが私ではなかった、というだけのことです。
今年9月に発売された『さよならしきゅう』(講談社・岡田有希)は、子宮頸がんと診断され、子宮と両卵巣の摘出手術を受けた著者による闘病記です。本書の主人公は夫・娘と暮らす33歳の「おかだゆき」さん。彼女は実家の母親とは仕事がある時に家事を頼めるほど仲がよく、親戚との関係も円満です。この漫画では「おかださん」が診断~手術~術後という大変な経験を夫・娘・親族・友人などのサポートを得て乗り越えていく様子が描かれます。
本書は、同じ疾病・手術経験について書かれた闘病記であっても、自分がその本のターゲット層とは限らないのだ、ということをしみじみと気づかせてくれました。
医師を怒鳴りつける父親
冒頭に書いた通り、病気当事者には相違点のほうが多いわけですが、女性疾患の女性にあえて共通項を見出すとしたら「この国では、子宮・卵巣・乳房が関わる病気の治療方針の決定権が100%本人にない場合が多い」という点ではないでしょうか。日本では女性疾患の治療において、“家族”と呼ばれる人々の発言権が強い傾向があると個人的に感じます。
ただでさえ病気で不安なところに、医療の知識がない家族・親族が余計な口出しをしてくるせいで、精神的に削られることが多い。全員ではないにせよ、この国の多くの女性疾患当事者が共通して体験すると聞きます。
本書には診断から手術へ至るまでの間、家族や親戚、友人たちが示すさまざまな反応が描かれており、その中にはありがたいものもあれば、そうではないものもあります。
手術前の説明会で、徹底的にデータを用いて語る医師を怒鳴りつけ、襟元を掴みにかかる父親。私は数カ月前に子宮摘出手術を受けたばかりなのもあり、“ありがたくない反応”の典型だなと思いました。たしかに登場する医師の語り口は情緒に欠けところがありますが、その説明は決して不当なものではありません。