もうすぐバレンタイン・デーということで百貨店やスーパーなどではチョコレートの特設コーナーが否が応でも目に入ってくる今日この頃です。伊勢丹新宿店でのチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」はもう閉幕してしまいましたが、私の幼少時よりも日本人のチョコレート文化(ショコラ、と呼んだほうが適切でしょうか)への関心は年々高まりつつあるように思われます。
ピエール・エルメ、ジャン=ポール・エヴァン、ピエール・マルコリーニといったフランスやベルギーの有名ショコラティエの名前がポピュラーなものとなり、都市部では普通に買えてしまうのですから、グルマンディーでなくともチョコレートに対するリテラシーはここ数年で格段に高まっているのは間違いありません。
少し前なら高級ショコラの代名詞としてゴディバ(これはベルギーのブランドです)が通用したでしょうが、もはやバレンタインに女性から男性へとゴディバを送られても「ゴディバかあ……(まあ無難なところだよね)」と特別感が薄れてしまっているのではないでしょうか。これはショコラへのリテラシーの高まりがバレンタイン・デーというイベントの難易度を高めているとも言えるのです。
こうした話をしていると必ず「欧米でのバレンタイン・デーは女性から男性にチョコレートを送るという習慣はない」とか「製菓会社が仕組んだイベントにのせられやがって!」などという声が聞こえてくるものです。そんな卑屈な声は一切無視して話を進めますが、男性から女性へチョコレートを送る「逆チョコ」や、同性同士でのチョコレートを交換する「友チョコ」といった新しい習慣が認められ始めている昨今では「特別なチョコレートを送ることが難しくなっている」ことは性別を問わず問題視されるべき事由です。
「買いチョコ」で特別感を演出するのであれば、もはや日本では販売されていないショコラティエに手を出す……というのも有効かもしれません。そこまですれば、かぐや姫に得がたい宝物を入手するよう命ぜられた公達のようですが、「燕の子安貝」や「龍の首の珠」を得るように命をかけなくとも、海外に行きさえすればレアなショコラは手に入るのですから、お金さえあれば容易に実現できる話です。
例えば、クリスチャン・コンスタン(Christian Constant)。こちらはかつて銀座に出店していたものの2012年3月に日本から撤退したショコラティエです。どうして日本で成功できなかったのか、その理由は定かではありませんが、シェフであるクリスチャン・コンスタン氏はフランスでは「ムッシュー・ショコラ」と呼ばれるほどの超有名ショコラティエです。ビターな味わいを主体として様々なフレーバーを感じさせるボンボンの魅力は、ショコラ・マニアのみならず、酒好きの人にも素晴らしいマリアージュを約束するでしょう。
あるいは、アラン・デュカス(Alain Ducasse)。シェフは銀座にあるシャネルのビルの最上階にその名を冠したレストランを擁するフランス料理の巨匠ですが、ショコラティエとしても高名です。最近では、パリの有名デパート、ギャルリー・ラファイエットのメゾン館(家具やキッチン用品などの専門館)にも出店し、昨年秋頃私が実際に確かめたところによれば、めちゃくちゃに日本語が達者なフランス人の店員さんがいらっしゃいます(語学に不安がある方でも安心!)。こちらは柑橘系のフレーバーを加えたボンボンが印象的でした。
クリスチャン・コンスタンもアラン・デュカスもパリで手に入るものですが、さらにレアものをお求めの方にはルクセンブルクのオーバーワイス(Oberweis)はいかがでしょうか。こちらのお店は数年前のサロン・デュ・ショコラに出店していたもののここ数年は日本で手に入れることができない状況になります。なんといってもオーバーワイスはトリュフが絶品で、2010年の来日時に販売していた抹茶や、当時の新作であったラズベリーは未だに忘れられない味です。
手作り=ほっこり、ではない。
ここまでまるで『Hanako』(マガジンハウス)のごとき、グルメ情報が続きました。しかしながらバレンタイン・デーの特別感を演出する方法は「買いチョコ」ばかりではありません。「手作りチョコレート」というのもひとつの手段です。ただ、この手作りチョコレートは、貰う方との関係性が重要にもなってきます。
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