「守られたい願望」の出自
はあちゅう「どうして永子さんは結婚したくないんですか?」
永子「別に結婚しなくたって、恋愛もセックスもできるし、何なら出産だってできるわけじゃない? だから、結婚に縛られてお家のことをやるのは無駄だと思うんですよ。私は2人姉妹の長女で、小さい頃から『家を継ぐための結婚をしろ』って言われてきたけれど、それを受け入れられなくて抵抗感があるんだと思う。私たちは考え方こそ真逆だけど、こういう反面教師みたいなものを脈々と引き継いでく感じが共通してるのはおもしろいね」
はあちゅう「永子さんは結婚を無駄だと言い切るけれど、私には『論理的には無駄なんだろうけど、それでもファンタジーとしての結婚を信じたい』という思いがどこかにあるんですよ」
永子「確かに、はあちゅうさんの文章からはファンタジーを感じる。私が今のはあちゅうさんと同じ28歳だった時には、幻想を信じたいだなんて気持ち全くなかったですもん」
はあちゅう「そうなんですか?」
永子「28歳って私がライターとして独立した年齢で、仕事のことしか考えてなかったんです。当時の彼氏には『デートする時間がない』とか文句を言われてたけど、それが嫌ですぐ別れちゃったり(笑)」
はあちゅう「私も、どっちかっていうと恋愛よりも仕事を取っちゃうし、サバサバした性格と言われがちなんすけど、それでもやっぱりファンタジーから抜け切れないところがあって……」
永子「はあちゅうさんはよく『男の人に守ってもらいたい』って書いてるけど、それが結婚に憧れる理由のひとつだったりするんですか?」
はあちゅう「そこはよくネット上で反論をいただくところですね。『一人の人間として自立してたらそんなこと思わないだろ』とか。だけど私は男の人に頼りたい。それも不在がちだった父親の影響かもしれません」
永子「お父様は商社マンでしたよね」
はあちゅう「はい。仕事人間で、完全に放任主義だったんですよ。家庭に全然興味がなくて、コミュニケーションも得意な方ではなく、なおかつ夫婦としても仲が悪いという状態で……。たとえば私と妹が大喧嘩してギャンギャン泣いていても、父親は『われ関せず』で一切部屋から出てこなくて。そういうとき、すごく見捨てられたような気持ちになったんですよ。だからこそ、『守ってくれる男性が欲しい』って気持ちが育ってきたような気がします。私、恋愛の付き合い始めは迷いがあるというか、“お試し交際”みたいな時期があって、『ここまでやってもこの人は私を嫌わないかな』『こんなところまで見せても大丈夫かな』『これくらいわがまま言ってみても着いてくるかな』って、相手を試しちゃうんです。そうやって、『本当に守ってくれる男性かどうか』を見定めてしまう」
永子「父性の欠落だね。その『守ってくれる』ってのは、具体的に何かしてくれるというよりは、たとえ何もしてくれなくても、そこにいてくれるだけで安心できる絶対的な存在ってことだよね?」
はあちゅう「そうです!」
永子「その人がそこにいてくれるだけで自分が自分らしくいられて、100%素のままの自分を尊重して愛でてくれる存在っていうかね。うちは父親がそうだったんですよ。父は3年前に亡くなっちゃったんだけど、そうなって初めて、『いないってこういうことなんだ』『パパが絶対的な存在だったんだ』ってことに気づいて。そのときに私も『守られる』ことについて考えたんだけど、別に何かあったときに助けてくれるんじゃなくて、離れて暮らしてても、10年とか会ってなくても、いつだって揺るぎなく愛してくれていて、こっちも揺るぎなく愛しているという、絶対的な存在だったんですよ父は。私は結局、父親が大好きだから結婚しなくていいんだろうな。父の代替は要らないんだよね」
はあちゅう「なるほど。私にとっては母親がそれで、何をやっても母が揺るぎなく愛してくれるって自信があるからこそ、いろんな活動ができるんだと思います。母と結婚したいわけじゃないのに、母と同じような愛情を、私は恋人にも求めちゃうんだろうなあ。父からもらえなかった愛情を恋人で補いたいと思っているんでしょうね。
以前、母親から『春香ちゃんは男の子みたいになっちゃったね』って言われたことが心に残っていて。お母さんは専業主婦でお父さんに見捨てられたら生きていけない、妹はずっと体が弱くて家庭内で守られる立場。母親が弱い、妹が弱い、父親が不在。そんな家族の中で男としての機能を担うよう、長女の私が長男にもなろうと(笑)」
永子「それはわかる! 私も一緒。リアルに“長男”って呼ばれて育ったから」
はあちゅう「だから男らしく育っちゃったんでしょうね、私たち」
(構成/桃山商事・清田代表)
■はあちゅう(伊藤春香)/ブロガー、作家、ソーシャル焼き肉マッチングサービス「肉会」代表。 『はあちゅう』というキャラクターを活かし、在学中からブログや講演など幅広く活躍する。 2009年慶應義塾大学法学部卒業後、電通に入社。その後2011年にトレンダーズに転職し現職に。 近著に『自分の強みのつくりかた』(Discover21)、『アドガール大手広告代理店新人日記』(主婦の友社)がある。Twitterは コチラ。
■林永子(はやし・ながこ)/1974年、東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業後、MVを中心とした映像カルチャーを支援するべく執筆活動やイベントプロデュースを開始。現在はライター、コラムニスト、イベントオーガナイザー、司会として活動中。
連載:ナガコナーバス人間考察
■清田代表/二軍男子で構成された恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける恋愛の総合商社。男女のすれ違いを考える恋バナポッドキャスト『二軍ラジオ』も更新中。コンセプトは“オトコ版 SEX AND THE CITY”。著書『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)が発売中。
連載:桃山商事のクソ男撲滅委員会
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