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フラれて被害者ヅラするダメ男たちの映画に辟易~『her 世界でひとつの彼女』

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『her 世界でひとつの彼女』公式HPより

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 『her 世界でひとつの彼女』 スパイク・ジョーンズ監督

 具体的な年数は表示されないものの、多分そう遠くない、ちょっとだけ未来の世界が舞台。どうやらそこでは現在よりもIT的なものの技術がちょっとだけ発達していて、タッチパネルはすっかり音声で操ることが可能になっている模様。そんな世界で、手紙の代筆業として働きながら地味な生活を送っている主人公(ホアキン・フェニックス)が、人工知能のOSと恋に落ちてしまうという、ちょっと不思議なラブ・ストーリー……。

 のはずが、ちっとも不思議じゃないどころか、思いっきりわかりやすい、男のわがままな妄想炸裂映画になってしまっているから、不思議だ。

 さすが監督のスパイク・ジョーンズは、90年代以降、ビョークやビースティ・ボーイズなどのかっこいいPVを多数撮影してきたセンスの持ち主だけあって、今回の作品も、暖色系でまとめられた美しい街やインテリア、心地よい音楽はもちろん、交わされる会話の言葉選びも、「なんだかおしゃれ」と思わせる雰囲気を漂わせている。なので、この映画を素直に「素敵~」と言ってしまう女子が現れるのも、わからなくはない。しかし、それは罠である。

 映画の冒頭、新しいOSを購入した主人公は、まずその音声を男か女か選択させられる。そこで、女を選ぶ(わかりやすく説明すると、iPhoneのsiriが個人的な性格を持ったようなもの)。するとその声(スカーレット・ヨハンソン)は、いい感じにハスキーなセクシーボイスで(これが日本だとアニメ声なのかと想像するとさらにうんざりするのだが)ユーモアも知性もあり(なんせコンピューターだから人間の比にならない情報処理能力をもっている)、孤独な男はすっかり彼女の虜になる。同時に、初めて人間の相手をするOSの彼女(名前は「サマンサ」)も、その新鮮な関係に夢中になっていく。そして次第にお互いを「恋人」と確信し、めでたくバーチャル・セックスまでする仲に。

 って、せっかく近未来を舞台に今までになかった「肉体を持たない声だけの存在」との恋愛という斬新な設定なのに、そこで行われていることは人間の男女の恋愛とまったく同じで何ひとつ面白味がない。この主人公は典型的なダメ男なのだが、おそらく監督はそのことに無自覚で、それがますますこちらをイラつかせる。

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gojo

1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

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