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正解のない『アイス・バケツ・チャレンジ』賛否両論。難病にどう寄り添うか

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水も滴る林永子(イラスト/別珍嘆)

水も滴る林永子(イラスト/別珍嘆)

 ALS『アイス・バケツ・チャレンジ』

 このところ数日、アメリカを中心に展開されたALS(筋萎縮性側索硬化症)の啓発活動『アイス・バケツ・チャレンジ』の賛否両論が世間を賑わせている。キャンペーンの内容については、すでに広く知られているところにあるので、下記、リンクを貼るにとどめる。

『FIGHT ALS WITH THE #ICEBUCKETCHALLENGE』

『ALS アイス・バケツ・チャレンジ』

 発症後の平均寿命は三年から五年。罹患者は世界で十二万人。しかし、発病の原因も治療法も未だ解明されていない難病・ALSについて、本グローバルムーブメント以降、その一般認知度は格段に上がっている。

『日本ALS協会』

『難病情報センター』筋萎縮性側索硬化症

 日本では、ALSを罹病した広告プランナー藤田正祐氏が代表を務める『END ALS』の活動が顕著だ。昨年には著書『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社)が発売となり、メディアに登場される機会も増えているようだ。

『「ALSよ、くたばれ!」 30歳にして余命数年を宣告された広告プランナー・ヒロが抱いた”怒り”とは?』

 他にも、週刊「モーニング」(講談社)の人気漫画『宇宙兄弟』に登場する女性科学者がALSを罹患した描写を通じ、その名と病状を知った一般読者も多数いることだろう。また、今年1~3月に放送されたドラマ『僕のいた時間』(フジテレビ系)で主役の三浦春馬が演じたのも、ALS患者の役であった。

 この難病の認知と理解を国際的に広めるために、『アイス・バケツ・チャレンジ』は誕生した。海外ではチャーリー・シーン氏が氷の代わりに札束を浴びて寄付を約束し、ビル・ゲイツ氏はバケツの域を越えた仕掛けを用意するショートムービーを制作。サッカー選手のネイマール氏はワールドカップ時の怪我の因縁の相手スニガ氏を次のチャレンジに指名するなど、いずれも個々のユーモアの解釈を強調したパフォーマンスを披露している。

難病と洒落の温度差

 このムーブメントを受け、各国の著名人以下、一般人も巻き込んでのアイス・バケツリレーが展開されるに至る最中、氷水をかぶる/寄付を募る/次のチャレンジャーを指名するといった「遊び心のあるゲーム性」と、日本人の理解の範疇にある難病/寄付/慈善活動のイメージが噛み合わないせいか、国内では批判的な意見が噴出している。

 氷水をかぶる動画には「危険」「心臓発作を招く」「主催者の一人が亡くなった(死因は泥酔時に海に入った際の事故であり、アイス・バケツではない)」。かぶり方に個々のユーモアの解釈が挿入される際には「難病を利用した自己アピール」「ただの悪ふざけ」「不謹慎」。アイス・バケツ動画が連日出回るムーブメントは「難病そっちのけのお祭り騒ぎ」「健常者による冷やかし」「支援につながらない一過性のムーブメント」。芸能人の参加は「偽善」「売名行為」。不参加表明もまた「立ち位置を慮った上でのパフォーマンス」。指名制度には「ねずみ講」「チェーンメール」「不幸の手紙」。総じて「チャリティー強制」。

 こうした批判は概ね、プロジェクトの是非を問う意見というよりは、本意を理解し難い者の印象と反応による否定的な感想に過ぎないと、私は捉える。そもそも本件は、通常の形式張った情報開示では難病支援や寄付活動への一般認知が広まらない現状を打破するために、より多くの人々が身近な感覚で理解し易い「洒落」を導入し、注目を促すことを目的としている。

 チャリティーに親しい国、敷居の高い国。社会活動の一環として日常的に寄付を行う立場の者、寄付に縁遠い生活者等々。価値観も言語も異なる、世界中のあらゆる人々の関心を引くための最大公約数的なアイコンとして、アイス・バケツ・チャレンジは選ばれた。

 その洒落に対し、のるか・そるかの決断は、人々に委ねられている。参加を強制する構えもなければ、氷水か、寄付か、二択を迫るものでもない。どちらかでも良ければ、両者でもいい。指名されなくとも、自発的に行っても良い。他者からの指名を受けるも断るも各人の自由だ。プロジェクトの屋台骨を支えるものは、あくまでも個人の選択を尊重するニュートラルな余白である。

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林永子

1974年、東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業後、映像制作会社に勤務。日本のMV監督の上映展プロデュースを経て、MVライターとして独立。以降、サロンイベント『スナック永子』主宰、映像作品の上映展、執筆、ストリーミングサイトの設立等を手がける。現在はコラムニストとしても活動中。初エッセイ集『女の解体 Nagako’s self contradiction』(サイゾー)を2016年3月に上梓。

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