愛があれば許される、のか
「おにぎり」や「みそ汁」といった、古き良き日本食という幻想をたっぷり孕んだ、幻想的国民食とも言える食べ物のもたらす美徳は、「真実の愛」さえ見つければ何をやっても許されるケータイ小説における「七つの大罪」にも親和性が高いように思う。本田透は、リアル系ケータイ小説でしばしば題材として描かれる売春(援助交際)・レイプ・妊娠・薬物・不治の病(エイズや癌)・自殺・真実の愛の7つをケータイ小説七つの大罪と呼んでいる。ライターの早水健朗はこれら大罪の中に明らかにDV(デートDV)が漏れていると指摘し、援助交際・妊娠・薬物・不治の病よりもDVのほうがケータイ小説には頻繁に登場しており、例えば『恋空』や『赤い糸』の主人公と恋人の間の関係にデートDVの構造が見て取れると指摘している。
こうした、『「真実の愛」さえ見つけることができれば何をやっても良いのか?』というケータイ小説へのツッコミは、幻想的国民食のもたらす物語においても同様に成立する。美徳を求めることは、幻想的国民食の大罪でもあるのだ。
そこに利益と欲望があるから、美談や物語は産まれる。だが、利益と欲望の陰に隠れた視線の暴力によって蔑ろにされる人が産まれてはいけないのだ。食育の目指す「理想的で素晴らしい日本人の食事のあり方」、それを夢見る瞳の、視線の先を読むことが重要なのである。
■ 柴田英里(しばた・えり)/ 現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。Twitterアカウント@erishibata