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「マザコン!」と斬り捨てられない楳図かずおの情念がこもった問題作『MOTHER』

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『MOTHER』オフィシャルHPより

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『MOTHER』   楳図かずお監督

 忘れもしない小学四年生のとき、近所の古本屋で「洗礼」の単行本と出会って以来(まだ文庫版は発売されていなかった)、楳図かずおという漫画家の、女性の美醜への執着、特に、老いによって失われる美への恐怖心(と、老いた女の悲惨さ)の描き方には、何か普通では考えられないほどのトラウマや創作の元ネタがあるはずだと考え続けていた。その楳図が78歳にして初めて、自作の脚本を自ら監督したという映画を、見逃すわけにはいかなかった。

 「洗礼」では、その美貌と演技力から国民的大女優の地位を手に入れた若草いづみが、歳をとるにつれ、顔に大きなシミや皺ができていき、美しさを失っていく。そのことに耐えられなくなった彼女は、計画的に女児を出産、娘・さくらがやがて美しい小学生に成長したとき、脳の移植手術を行い、外見は可愛い女の子だけど内面は狡猾な中年の女性として生き直す、という、ぶっ飛んだ物語だ(映画化もされた岡崎京子「へルタースケルター」は今作の影響を強く受けていると思う)。

 そんな漫画を描いた人の、70歳を越えてからの初監督作のタイトルが、『MOTHER』である。もう、見る前から半分くらいネタがわかってしまったようなものである。そうか、楳図にとって何よりも影響を受けていた存在は母親だったのかと、それを確認するためだけに劇場に行ってみたが、いやしかしさすがは楳図かずお。こちらの想像をあっさりと超えるような、それはそれはなんとも切ない、年老いた女の哀しく狂った物語になっていた。

妖怪のせいなのね

 映画は、片岡愛之介演じる楳図自身の元に、彼の半生を本にしたいと現れた、若くて美しい編集者の女性が、楳図から色々と生い立ちについて話を聞き出し、その話を元に進んでいく。取材を続けるうち、既に亡くなっている母親の存在に興味を持った編集者は、彼女の親戚や奈良の山奥にある生家を尋ね、いくつかの隠された恐ろしい事実を知っていく。

 そんなとき、その母親の幽霊が出現、暴走。やがてその幽霊は実体化し、生前自分を苦しめた人たちを殺したり、無関係なはずの編集者にまで襲いかかる。亡き母親の行動に気付いた楳図は、自ら母の情念と対峙しようと立ち上がるのだが……。

 劇中での楳図かずおは、常に着ている赤×白のボーダーが片岡愛之助に全然似合っていないという不自然な点を除いては、いたってノーマルな人間として描かれている。彼自身も、自分が特に母親に執着しているつもりもない、普通の母子関係だったと思っているようだ。

 が、決して“普通”なんかではなかった。以下はネタバレになる。

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gojo

1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

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