セックスと期待と
バツ2で「結婚願望なんてない」「男はもうこりごり」とうそぶきながらも、抄子はかすかに期待してしまうのだ。愛されるかもしれない自分に。今度こそうまくいくかもしれない結婚に。
「結婚も束縛される恋愛もほしくないけど、女は愛情のないセックスなんてできやしない」と考える抄子。恋愛感情の一切付随しないセックスを楽しめる女性もいるだろうが、抄子はそうではない。一樹に特別な感情を抱かないように自制しながら、ひとときの快楽で満足感を得る。
途中、一樹との関係を進展させたいと願ってしまう気持ちを捨て、「素敵な別れをしよう」という台詞も口にするけれど、本音ではそこまで割り切れてもいない。「依存しちゃいけない」「儚い関係なんだ」「これ以上、一樹に心を支配されちゃいけない」と、ことあるごとに自らに言い聞かせ、戒める。こんなことを続けていたらもっと病みそうなものだが、抄子は意外にもドライで、最終的には読者を驚かせる決断をする。
実際、いくら「ただの友達」と言い張っていても、頻繁にセックスしていたらどちらかが恋愛感情を抱いたり依存したりしてしまう。肌に触れるってそういうことだろう。もちろん、どちらもまったくベタついた感情が生まれないスポーツセックスや、あくまでも友人としてのセックスパートナーもあり得るだろうが、他人同士が関わるときになんらかの“期待”を寄せてしまうのはごく自然なことだ。
好きだ、付き合おう、結婚しよう。そうすんなりとはいかない、バツがついてたくさんの傷も持った大人たちの濃密な物語がそこにあるのだろう。
1 2