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興味のない人から向けられる好意は「不快」か「愉快」か

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「クズの本懐1巻」スクウェア・エニックス

「クズの本懐1巻」スクウェア・エニックス

「興味のない人から向けられる好意ほど、気持ち悪いものはないでしょう?」

 まとめサイトで、「男性作家と女性作家の漫画での感性の違いが話題にwwww」という一文を見たことはないでしょうか。昨年10月頃でしたかね、2つのマンガの象徴的なコマ画像が貼られて大きく話題になりました。

 男性作家の方は、女の子が「男の子から『好き』って言われてうれしくない女の子なんていないんじゃないかな…」と優しい微笑を浮かべ、その子に好意を抱いている男の子が耳まで真っ赤にしている図。赤松健先生の『ラブひな』(講談社)ですね。

 一方、女性作家の方は、冷たい眼差しの美少女がモブキャラから告白されて「興味のない人から向けられる好意ほど 気持ちの悪いものってないでしょう?」とばっさり斬る場面。横槍メンゴ先生の『クズの本懐』(スクエアエニックス)1巻に収録されているエピソードです。

 女である私は後者に共感を覚え、『ラブひな』には戦慄しました。世の中には、「こいつと関わったら、気持ち悪いどころか自分自身の価値が相対的に下がるから絶対にやめて欲しい」と言いたくなるほど見下す対象もいるじゃないですか。そういう相手から好意を告白されたら、走って逃げた上で「私なんてその程度の価値しかない人間なんだ」と絶望してしまうかもしれません。実際、性別をひっくりかえしてみても、男性側が「この女に好かれるなんて絶対イヤだ」と逃げてしまうこと、あると思います。傲慢の誹りを受けるでしょうが、誰が相手でも「“好意”ならすべてOK」、なんてことはないですよね。むしろ好意だからこそ気持ちが悪いものです。

 さておき。女性作家とはいえ、青年向けの官能描写を多く含んだマンガを描く横槍先生。連載誌も「月刊ビッグガンガン」ですし、女性読者をメインターゲットに想定して描かれた内容ではないと思います。ではどういう作品なのか? この1コマで興味を抱いた私は、『クズの本懐』既刊4冊を手に取ってみました。

 ちょっと外野をはしょると、主な登場人物は4人。前出の冷徹な容姿端麗の女子校生(花火)、その彼氏で女子人気の高い男子高生(麦)、美少女の隣人で片想いの相手である真面目な男性教員(鳴海)、同じく男子高生が恋心を寄せる音楽教師の女性(茜)。えー、ややこしいですが、要するに、恋の矢印は「女(花火)→男(鳴海)→女(茜)←男(麦)」こうです。

 花火と麦はカップルを装っていますが、本音ではそれぞれ別の人物に恋焦がれている。しかし年齢差や社会的立場の違いもありますし、この恋は現状では叶わないと諦めてもいる。そこで寂しさの埋め合わせに、花火と麦はキスやペッティングを繰り返すようになります。「興味のない人から向けられる好意ほど気持ち悪いものはない」という花火が、なぜ麦と性的行為に及ぶのかというと、ひとつには「麦に対する生理的嫌悪感がない」ということ。そしてもうひとつは「麦が自分を好きにならないとわかっているから」。

 花火は成績優秀な子ですし、品行方正な生徒。できるだけ他人を傷つけずにいたいと思う倫理観を持ち合わせていて、友人を深く傷つけてしまったと自覚した際にはひどく落ち込みます。クラスメイトから「二股かけててどっちか選べない」という恋愛相談を持ちかけられて「決められないなんて共感できないなあ」と感じ、恋愛で気分が上下してしまうことに嫌悪感を抱く別の同級生にも「生きてるんだから苦しいのは当たり前じゃない?」ともっともらしく言及。あらゆる事象を「そういうものなんだ」とすんなり受け入れられる柔軟な思考の持ち主なのに、彼女はある種の潔癖さによって、自縄自縛になっているとも言えるでしょう。

 ただ、登場男性たちが一様に恋してしまう音楽教師・茜は、その逆なんです。

 興味のない人から向けられる好意に悦びを感じ、他人を傷つけたり翻弄したりすることで快感を覚える茜。ダサいベージュのカーディガンをまとい、わざとらしいくらいシャンプーを香らせたストレートヘアー、控えめのナチュラルメイク、天然ボケぶった振る舞い……すべては異性を虜にし、そのうえで同性を嫉妬させ翻弄して愉しむための道具なのです。茜にとって、異性が好意を抱くよう仕向けることは、呼吸より簡単で自在。容貌が特段優れているワケではありませんが、「こうすれば好かれる」という方法論をばっちり知っていて、花火が大好きな鳴海先生を欲情させるのだった「チョロすぎ」。

 女としての優越感を実感したいから、傷つけられる側(=搾取される側)に回りたくないから、他人から求められることは気持ちがいいから、茜はごく自然にそうやって要領よく振る舞ってきました。それを単に「性格が悪い」で片づけるか、「自己愛の強さ」と見るかはさまざまですが、“欲しいモノ”が明確な花火よりも、何を以て満たされるか上限が定かでない茜の方が、長い人生は生きづらそうです。

 あなたは「興味のない人から向けられる好意」で優越感を得ますか? それとも嫌悪感を抱きますか?

(まい竹城)

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