左のビンには真っ黒なカビが生えた白米、右のビンには米麹のような風合いの白米(どちらも平成25年11月に入れたもの)。
このほか、腐ってドロドロに液状化したジャガイモVSカサカサに乾燥したジャガイモバージョンも。これらを手に、推定50代の女性はこう話し出します。
「有機栽培の食品は、こんなふうに腐るんです! 有機栽培には肥料に鶏のフンなどが使われているんですよね。腐った食品のニオイをかぐと、どんな肥料が使われているかすぐにわかりますよ」
ほう。腐るのは、肥料のせいなんですね。栄養過多なんでしょうか。
「自然農法のものは、腐らずに枯れるんです。こっちのお米(自然農法の方)は、発酵したようないい香りですよ」
腐るのは腐敗菌がついたからであり、あとはたまたま湿度や温度の差があったんじゃないかな……。有機肥料で育った作物は腐りやすい! 腐るような食品は食べるべきでない! と言いたいのかもしれませんが、いずれにしても腐る前に食べるのだから、問題なくない? 定期的にネットを賑わす〈腐らないハンバーガー〉といい、食の〈意識高い系〉は、腐敗ネタがお好きですね。
「こちらは鶏の骨の比較です。普通のお惣菜に使われている鶏(有機栽培の飼料を与えられた鶏)は、骨に抗生物質などが沈着しているしこんなにスカスカ。自然養鶏の鳥は骨もキレイだし、瓶を振ると音の違いもわかりますよ」
えーと、骨に沈着するんですか?
「はい。私の知人のお母さんのお骨も、火葬の後ピンク色になっていたなんて話もありますし」
それ、副葬品の色が移ったんですよ、多分。そんなこと言ったら林家ペー&パー子も、レ・ロマネスクもお骨はきっとピンク色だ。このほかインフルエンザのときに何を食べても吐いてしまうのに、無農薬のミカンとお茶だけは吐かずに吸収した、などの貴重なお話も拝聴。
土が放射能をも浄化!?
最後に「普段、食べ物に気を使われていますか?」と問われたので「いえ、あんまりですね~」と正直に答えると「じゃあ、今日は大事なことに気づけてよかったですね!」と、まぶしい笑顔と謎の励ましが飛んできた! う、受け止められない! 会話のキャッチボールができなくて、ごめんなさい。思わすフリーズしているわたしの横では、別の売り子さんによる「これらはアトピーや胃炎があっても安心して食べられるんですよ」なんてトークも炸裂しておりました。
ちなみにフェアでディスられていた〈有機肥料〉とは、魚粕、糠、堆肥、馬糞、牛糞、鶏糞、下肥、骨糞、草木灰のことで、自然農法ではこれらを使うと〈肥毒(ひどく)〉となり、土や作物の状態が悪くなるというお考えのよう。実際、畜糞に土によくない成分が入っているのは確からしい。それをトレンドで有機栽培に手を出したような素人がむやみやたらに使うと、塩分などで〈土が死ぬ〉ということは少なくないよう。循環型社会を作りたい自然農法派が有機を叩くのは、〈土をダメにするケースがある〉という点がいちばんの理由かもしれません。
さらに自然農法は手間暇がハンパなく、なかなかうまくいかないからこその〈苦役〉〈修行〉感があるので、宗教活動に役立つのかもしれません。前出の友人は「だから、たまたまうまくいったときの快感も大きいんじゃないですかね。ギャンブルで大当たり! のときみたいな(笑)」と、またまたヒドイことを言っていますが。
信仰としてさまざまな農法を実践するのはもちろん自由ですし、流通している以上は法律上も問題ないのでしょう。よくわからない現象に対して「無い」ということを証明するのも、なかなかむずかしいことです。しかし「体にいいものを食べたい」「不調を解消したい」「子どもに安全なものを食べさせたい」という人に対して恐怖を与えるようなセールストークには、ちょっとゲンナリ。肥料でドーピング状態になっているかもしれないけれど、有機栽培の野菜そのもので健康被害が出るとは考えにくいよなあ。