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キラキラ輝いて見えた~岡崎京子展に寄せて 加藤千恵特別寄稿

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豪華すぎるイベント!

豪華すぎるイベント!

 11月1日土曜日。世田谷文学館で開催された「岡崎京子展プレトーク」に出かけた。

 わたしは少女漫画に育てられたといっても過言ではない。気づけば少女漫画はすぐ隣にいて、いつだって励ましてくれたり、優しく叱ってくれたり、たくさんのことを教えてくれる、素晴らしい女友だちのような存在だった。大人になった今だって変わらない。むしろ愛は日増しに深まっているかもしれない。

 なので2015年の1月から「岡崎京子展」が開催されると知ったときも、意気込んで手帳に書き込み、いつ行こう、というか、何回行こう、と飽きもせずに今も考えている。

 わたしが岡崎京子さんの漫画に出会ったのは十数年前で、そのときわたしは、地方都市に住む高校生だった。友人に「ジオラマガール・パノラマボーイ」を貸してもらったのがきっかけだった。読み終える頃には、どころか読んでいる最中から、大ファンになっていた。結局同じ本を古本店で探して購入し、それ以外にもあらゆる本を買いあさった。例外なくタイトルからして魅力的だった。

 漫画の中で舞台となっているのは、おもに東京だ。わたしは全然知らないその土地に、そして全然知らない80年代に憧れを抱いた。漫画の登場人物は、必ずしも幸せなわけではなく、それどころか日常に倦んでいたり、トラブルに巻き込まれたり、どうしようもない恋のさなかだったり、やりきれない思いを抱えていたりすることも多いのだが、そんな状況ですら、キラキラと輝いて見えた。まぶしかった。イラストもセリフもコマ割りも、ひとつひとつをそっと拾って集めたくなるような、刹那的な美しさに満ちていた。

ファン代表・しまおまほさん

ファン代表・しまおまほさん

 イベント会場の多くを占めていたのは女性で、わたしと同じ30代、もしくはもう少し上の40代といった層がほとんどだったように思う。150人の定員に対し、1200人の応募があったそうだ。みんな岡崎京子が好きなのだな、と思うだけで、奇妙な連帯感を抱えてしまう。

 登壇したのは3人の漫画家だ。桜沢エリカさん、安野モヨコさん、しまおまほさん。なんという華やかなメンバー! さらに、安野さんが契約するクリエイターエージェント・コルクの佐渡島氏が進行役となり(急遽決定したとのこと)、それぞれに質問していくというスタイルで、およそ一時間半のイベントはゆるやかに進んでいった。トークの詳細は、2015年1月に平凡社から刊行される予定の同展カタログに収録されるということなので、ここではあくまでもわたしなりの感想を交えて書いていければと思う。

「毎日電話してた」と笑う桜沢エリカさん

「毎日電話してた」と笑う桜沢エリカさん

 3人の立ち位置の違いがあらわになっておもしろいなと感じたのは、岡崎さんに対する呼び名だ。

 同い年で、デビューした19~20歳当時からしょっちゅう一緒に遊んでいたという桜沢さんは「京子ちゃん」。

 生まれて初めてのファンレターを出した少し後に会うこととなり、アシスタントとして岡崎さんのもとで働いていたという安野さんは「京子さん」(そのころ安野さんは16歳、岡崎さんは23歳だったとのこと)。

 岡崎マンガの大ファンで、スチャダラパーのライブで見かけたときに一度だけ握手してもらったというしまおさんは「岡崎さん」。

 3人のそれぞれ好きな作品や思い入れのある作品の話もさることながら(ちなみに連作掌編である『カトゥーンズ』が頻繁に話題にのぼっていた印象)、実際に交流があった、桜沢さんと安野さんによる、岡崎さん本人にまつわるエピソードをいろいろ聞けたのには、やはりテンションが上がった。

 冷蔵庫には牛乳しか入っていないこともしょっちゅうで、あまりごはんを食べない岡崎さんは「すっごく痩せてた」けれど、精神的にはきわめて健康で明るかったと、桜沢さんと安野さんが口を揃える。

 エキセントリックな少女が主人公の作品を描いていても、本人はフラットでニュートラルで、作品にのめり込まない。明るくてよく笑っていて、ピースサインをよくする。仕事が早く、フットワークが軽く、いつも赤い口紅が少しだけはみだしていたという岡崎さんの姿を、彼女自身の漫画の一場面のように想像してみたり。

 思春期に、岡崎さんの漫画によって、気持ちがラクになった、というしまおさんの発言も印象的だった。岡崎さんの描く女の子たちの他愛のないおしゃべりに重なって、自分の日常も輝いて見えたのだ、と。わたしも同じ気持ちだったし、おそらく、会場にいる多くの人たちが頷いていたのではないだろうか。

  人生は楽しい、なんて手放しに言えたりはしないけど、岡崎京子の漫画がある人生でよかったな、と改めて思う。来年の「岡崎京子展」に出かけたとき、きっと同じことを思うのだろう。

【岡崎京子展 開催概要】
期間:2015年1月24日(土)から3月31日(火)
場所:世田谷文学館
住所:東京都世田谷区南烏山1-10-10
TEL:03-5374-9111

■加藤千恵(かとう・ちえ)/ 1983年北海道旭川市生。歌人・小説家。高校時代に、短歌集『ハッピーアイスクリーム』(マーブルトロン、現在は集英社文庫)でデビュー。小説、エッセイ、詩など幅広いジャンルで活動。最新刊に、連作短篇集『こぼれ落ちて季節は』(講談社)。

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