小学生のうちに救いの手を
第一に必要なことは、彼女らが路上に飛び出る前に――いやそれ以前、地元同年代のコミュニティ内でセックスワークに取り込まれる前に、彼女らを救済することだ。『小学生時代に救いの手を』という鈴木氏の主張はとても真っ当かつ効果的であると思う。
『恋活議論の必要性』『自爆恋愛を避ける、恋活のシステム化』という提案には手放しで賛成はできないが、従来のフェミニズム的議論(女の自立は職業訓練と経済的自立で男に依存せずに生きていくことなど)と並走させる必要は強く感じた。
日本のフェミニズム運動は、「女性の地位向上」によってもたらされる「より良い異性愛社会」を目指していた部分が大きいので、とりこぼされる層があったことは事実だ。
『従来のフェミニズム的議論のテーブル上では、恋愛への依存や共依存は強く否定され続けてきた。依存と共依存はDVの温床、恋愛至上主義こそ不幸の始まりとされ、女の自立は職業訓練と経済的自立で男に依存せずに生きていくことだとされてきた。(p197)』
という鈴木氏の指摘は間違っていない。
『最貧困女子』や、『デコログ』『クルーズブログ』の少女たちは、非常に強く恋愛を求めているし、「恋愛による自己肯定と承認欲求」を神話化し、それによる救済を切望している。この事実と、恋愛至上主義を否定する従来のフェミニズムとの相性の悪さは言わずもがなだ。
飢えてギリギリの立場に置かれた少女たちに、「フェミニズム思想」は、「おにぎりとコスメ」ほどの即効性をもたらさない。例えば、無一文の上に3日間食事を摂っておらず猛烈な空腹を抱えた人間がいるとしよう。「『今すぐ1万円』か『半年後10万円』か、貰えるとしたらどちらを選びますか?」と問われたら、多くの人は『今すぐ1万円』を選ぶことだろう。
学級委員長的な、「“正しさ”の押しつけ」では、多くの「おにぎりとコスメ」に飢えた少女たちは逃げ出してしまう。だが、だからこそ、従来のフェミニズム的思想を否定するのではなく、「おにぎりとコスメ」の少女たちの欲望と共存させて欲しいと思うのだ。
実は鈴木氏が提唱する『自爆恋愛を避ける、恋活のシステム化』と、従来のフェミニズム的な『経済的自立による女性の自立』との共存・並走は、『小悪魔ageha』の「“病み・闇”企画」など、一部のギャル雑誌では、自然発生的に行われていたように思う。だが、多くのギャル雑誌が廃刊・休刊した今、この機能を担う領域は確実に縮小している。
そうした中で、「最貧困少女が見つけやすい」、「最貧困少女を見つけやすい」領域は、『デコログ』や『クルーズブログ』などの女性向け無料SNS・ブログである。
「自爆恋愛を避けること」「職業訓練と経済的自立で男に依存せずに生きていくこと」を並走させられ得る場として、『デコログ』や『クルーズブログ』とNPOの貧困女性支援団体や地域のネットワークが協力できることも多くあるのではないか、と、門外漢ながら考えた次第だ。
■ 柴田英里(しばた・えり)/ 現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。Twitterアカウント@erishibata
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