インタビュー

みんな幸せな家庭を築けるとは限らない。他人の事情を「想像すること」

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『子宮に沈める』©paranoidkitchen

『子宮に沈める』©paranoidkitchen

 2010年夏に発覚した大阪二児放置死事件をもとに作られた映画『子宮に沈める』(2015年3月にDVD化)。2015年に入っても、育児に悩む母親が子供を殺害する事件が相次いで発生している。シングルマザーが経済的にも精神的にも疲弊し、2人の子供を殺害してしまう経緯を描いた緒方貴臣監督は、悲惨な事件が繰り返されてしまう背景には、子供や子育てに対しての無理解、不寛容な社会があると指摘する。これからの社会を作る若者にもこの映画を見て欲しいと語る緒方監督に、前編に引き続きお話を伺った。

他人の「不幸」を気持ちよく消費しない

―― 緒方監督は児童虐待を描いた『子宮に沈める』だけでなく、虐待とリストカットについて撮った『終わらない青』、ラブドールを愛する男性を描いた『体温』など、社会に問題提起を投げかけるような映画を撮影されています。こうした映画をなぜ撮り始めたのでしょうか?

緒方 ぼくはもともと戦場ジャーナリストになりたいと思っていたんですが、イスラエル・パレスチナ問題を追いかけているジャーナリストの広河隆一さんに相談をしたら、「世界的な紛争は世界中のジャーナリストが追っているから、日本の、誰も知らない問題に目を向けたら」とアドバイスをいただいたんですね。

 そこで日本に目を向けてみたら、戦場がいっぱいあった。何万人もの人が毎年自殺している。戦争で亡くなる方よりも多い。この世界を描くべきだって思ったんです。

―― 「不幸探し」をして、過激に描くライターやジャーナリストもいます。『子宮に沈める』はそうした作品とは一線を画しているように感じましたが、「不幸」を消費するだけの作品にしないために心がけていることはありますか?

緒方 音楽で盛り上げたりお涙を誘うような演出はしないようにしていますし、直接的な暴力描写も描きたくないと思っています。『子宮に沈める』でも、お母さんがホストとセックスしている様子は描いていません。子供のいる隣室の様子を映して、音で表現するようにしました。

 日本の社会システムって、心身の健康な成人を基準にしてつくられていますよね。その枠からあぶれると「弱者」になり、さらに弱者の「不幸」をエンタメとして消費する構造もある。

 たとえば障害者のお話をテレビ番組が取り上げる際の演出も気になるものがあります。障害を持つ人間が一生懸命頑張っている姿をみせて、「この人たちも頑張ってるんだ。俺も頑張ろう」って視聴者に思わせる。障害者は別に、他人に勇気を与えるために頑張っているわけじゃないですよね。放送によって障害や難病の認知度が高まるかもしれないけれど、それで当事者が救われるとは思えない。そういう消費はしたくないと思っています。

―― そこで取り上げられる障害者は“頑張れる”障害者に限られてしまうというのも問題です。そうではない方もたくさんいるのに、テレビではなかなか取り上げられない。前向きな姿ばかりを映すことで、かえって視聴者側に「応援したくなる障害者」の基準がつくられ、障害への偏見が強まる可能性も高いと思います。

緒方 そうですね。おそらく、わかりやすい感動ストーリーとして演出しないと、「つらいだけの話なんて見たくない」って視聴者は目を背けてしまうんじゃないですかね。

またシングルマザーが子育てに奮闘するドラマもそうで、だいたいストーリーは安易なハッピーエンドなんですよ。ハッピーにして、気持ちよく終わらせてしまう。感動モノは売れるんでしょうけど、ぼくが作る作品は、「ああよかった」で終わらず、お客さんが見終わったあとに考えこむようなものにしないといけないと思っています。

―― 『子宮に沈める』のラストシーンは、どのように解釈すれば良いのか悩みました。

緒方 ええ、わかりにくい結末だと思います。映画を見終わって、日常生活の中でふっと思い出してもらいたいんです。パッケージには女児がマヨネーズの容器に口をつけて吸っている写真を使いました。マヨネーズをみたらこの映画のことを思い出してもらいたい。そうやって意識が少しずつ変わっていってほしい。

 ただ、あえて言いたいのは、ぼくも映画制作で収入を得ているということです。観客から「この作品を撮ってくれてありがとう」って言われることもあり、それには困惑も覚えます。もちろんこういう現状を伝えたいと思っていますが、それだけではありません。ぼくも儲けのことは考えます。……まあ儲かっていないんですけど(笑)。社会問題へ視線を向けるような啓蒙活動ではありますが、ボランティアではない。ぼくらはいま、テレビやインターネットで当たり前のように情報を手に入れていますが、何かを発信するときにきちんと手間をかけて取材している人がいることを忘れちゃいけない。

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