白タク運転手たちが車両の脇に立ち、「○○方面だよー」「●●経由で△△行くよー」とダミ声で呼びかけ、同じ方向の人が1台の白タクに2〜4人乗り合わせるという光景は、私にとっては日常のものでした。「白タクは危ない」という噂も耳にしていましたが、「利用している人も多いから、まぁ大丈夫なんじゃないの」という認識だったのです。
ということで、その繁華街で見た白タクに値段を訊くと、正規のタクシーの半額で帰れることがわかりました。しかも、乗り合う人たちもスムーズに集まってきて、ほどなくして出発。それぞれの行き先を確認すると、私を最後に降ろしたほうがいいと判断され、ゆえに私は助手席に乗りました。それなりに長い道中で、しかもお酒が残っていたため次第にウトウトとしてしまったのは、ウカツというよりほかないのですが、ハッと気づいたときには最後の乗客となっていました。自宅の具体的な場所を伝えると、再びタクシーは走り出したのですが、大きな道路から1本脇に入ったところで、ふと路肩に寄せて停車しました。そして、運転手がいきなりシートベルトをはずしたかと思えば、私の太ももをぐっとつかみ、「いうこと聞けば、タダにしてあげる」などというのです。
恐怖で声も出ない
事態を把握する前に恐怖でのどが詰まり、声も出ませんでした。一見、交渉のようですが、私がNOといったところであっさり引き下がるわけではなさそうです。現に、私が黙っているのをいいことに、男はどんどん身体にさわってきます。私は我にかえって無我夢中でその手をふり払い、全身で暴れました。どれほどのあいだそうしていたかわかりませんが、やがてチッという舌打ちの音が聞こえ、なかば蹴り落とされるようにしてタクシーから降ろされました。
幹線道路を曲がる際にコンビニがあるのを見ていたので、そこに逃げ込み、あらためて正規のタクシーを呼んで帰宅しました。通報するという発想もよぎりましたが、できませんでした。当時はまだそうした方面への意識がいまよりずっと低く、「白タクに乗った私が馬鹿だったから」「しかも酔って寝ちゃっていたのが悪いんだ」と思ってしまったのです。なんとも愚かなことです。男にとってそれが初めての犯行ではないはずで、これまでにも被害者がいたでしょうし、私が通報しないことで次の被害者を生んでしまったかもしれません……が、そう気づいてアクションを起こそうとしたところで、私はその車のナンバーも見ていなかったのです。
思い返すだけで恐怖と後悔が胸に充満します。実際に強姦までに発展していれば心身はさらにダメージを受けていたでしょうが、挿入がなかったからよかったとも、あれは暴力ではなく取引を持ちかけられただけとも思いません。〈暴行されかけた〉ではなく、無理にさわられたのだからすでに暴行ははじまっていました。これで他人から「何もなかったならいーじゃん」みたいにいわれると、全力で異を唱えたいです。
今回の被害者女性、そしてこれまで被害に遭っていた女性が、そんな思いをすることがないよう祈っています。そして、一日も早く心身の健康を取り戻せますように。
■桃子/オトナのオモチャ約200種を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。ブログ、twitter
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