そもそも専業主婦にさえアスリートの食事管理は難しいのでは
そもそも、アスリートの食事管理を専業主婦が全食まかなえるかというと、そうではないんです。9時出社~21時退社(残業アリ)のサラリーマンだったら、「自宅で朝食」「昼食は妻の手作り弁当」「夕食も自宅で妻と晩酌」なんて生活も可能ですが、スポーツ選手には地方遠征があります。
田中投手の例ですと、メジャーリーグのシーズン中、月の半分は遠征していて家をあけるんですね。遠征に妻が帯同する場合もありますが、遠征地で妻の手料理……というのは現実的ではないでしょう。調理道具・食器・調味料などをすべて持ち込んで奥さんと毎月大移動するよりは、球団の仲間で食事をとった方が負担にならなそう。また、アスリートの食事管理は「筋肉量を増やしたいならタンパク質を取れ」とか「ダイエット中は炭水化物を控えろ」とか『Tarzan』(マガジンハウス)で知り得るようなレベルよりももっと深い世界であり、単純に栄養バランスのとれた彩り豊かな食事を提供することとは別物です。その奥深さについては、過去にNHKの「クローズアップ現代」でも取り上げられています。
つまり、プロスポーツ選手は結婚したからといって妻の手料理を毎日食べるワケじゃないし、食事管理も専門的な知識が要求される高度なものなので妻の両肩に「よろしく!」と任せてOKな内容でもない。「専業主婦だし、お料理頑張ります♪」と気合いを入れたところで、たとえばプロボクサーの妻だとしたら減量中はひたすらササミ茹でてたり、ね……。などと考えながらググッていると、球技系プロアスリートの妻によるこんな記事がヒットしました。遠征が多くて、夫が妻の手料理を食べる機会が少ない、というのは田中選手の場合と同じ。記事を書いた奥様によれば、そうした状況ではアスリートのカラダ作りに影響を与えられるほどの食事を提供できない、とあります。
本気で妻がアスリートの夫の食事をサポートしようするとどうなるのか。アスリートフードマイスターの池田清子さんという方は、マウンテンバイクのプロ選手を夫に持ち、海外遠征に同行して食事指導をおこなっているそうです。そうなってくるともはや主婦という範疇を超えて、妻がたまたま選手のスタッフだったという認識が正しい気がします。
だから、我々が抱いているイメージほど田中投手のパフォーマンスは里田さんの料理に支えられていないのでは、と思うんですよ。栄養学的な面よりも、むしろ、遠征から帰ってきて、妻のご飯を食べてほっとする、という心理的な効果のほうが大きそう。先にご紹介したブログでも「アスリートの妻は『心の栄養士』であるべきだと信じ、これからも私なりに夫を支えていきたいと思っています」と書かれています。これはなるほどと思わせる記述でした。
ただ、「心の栄養」という観点にズラしてしまうのならば、それは食事ではなくていいんですよね。だから専業主婦にならなくても、夫婦でそうした関係が築けるハズ。先述の海外アスリートの妻だって、めちゃくちゃ遊んでいるばっかりに見えても、それが夫に心の栄養を与えてることになってるかもしれない。さあそういうわけで、結婚否定されちゃったけれども、佐藤ありささんもわざわざ料理の勉強とかしなくて良いんじゃないか……?(いや、『俺のために勉強してくれる』というアピールが、長谷部選手的にはうれしいんですかね)
■カエターノ・武野・コインブラ/80年代生まれ。福島県出身のライター。Twitter:@CaetanoTCoimbra
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