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少女へのジェンダーバイアスをはね除ける『なかよし』連載の少女漫画『さばげぶっ!』

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(C)柴田英里

(C)柴田英里

 前回のコラムでは、『りぼん』『なかよし』『ちゃお』の付録と漫画の傾向について書きましたが、その後、コラムで少しだけ触れた、現在『なかよし』で連載中の、高校生の少女たちがサバゲをしたりしなかったりのドタバタコメディ『さばげぶっ!』(松本ひで吉 作)にハマってしまいました。

 『さばげぶっ!』は2014年にアニメ化もされ、『なかよし』の中でも準看板作品と言える人気と知名度を持つ作品なのですが、「こんなに酷い少女漫画はなかなかない(120%の褒め言葉です)」と感動するほど、少女漫画でよくある「お約束」を脱線しています。

 舞台は高校で、女子校生たちが部活動のサバイバルゲームに興じる姿がえがかれます。恋愛ではなくオシャレでもなく“サバゲー”という時点で、女児向けマンガ誌で連載するには極めて珍しい題材なのですが、まず、登場人物たちがみな、「少女漫画のお約束」から逸脱しています。

 主人公の「園川モモカ」は、少女漫画の主人公史上稀に見る腹黒さとゲスさと利己性によって、味方をなんの迷いもなく盾にし、華麗に屍を踏み越えて行くというサバゲプレイヤーです。

 「ゲス」「利己的」な特性が正当派少女漫画の主人公に与えられるのは非常に画期的なことです。彼女たちは恋愛において利己的に振る舞ってはいけないし、正当派変身ヒロインも戦いにおいてゲスな攻撃を仕掛けることはありません。やってはいけないとされている禁忌です。彼女たち(=正統派ヒロイン)は、常に利他性を基本に行動し、たとえゲスい感情や利己的な感情を抱いてしまった場合でもすべからく自己申告して反省するという習性のようなものがあります。しかしモモカはこの作品の中でどれだけゲスくても腹黒くても、決して反省しようとはしない。多くの少女漫画のヒロインが、好きな異性や友人にチョコレートを渡し愛情や友情を育むバレンタインデーさえも、「公然と先生にワイロを贈れる日!!!」として行動するゲスの信念を貫く少女です。

 モモカを慕う美少女「春日野うらら」はゴリラ並みの怪力を持つドMストーカーの変態、つまり深夜アニメ用語で言う「クレイジーサイコレズ」です。少女向けの作品で百合要素を扱う場合は、『マリア様がみてる』や、明治の女学生的な「エス」(少女同士の恋愛関係)や、『アイカツ!』的師弟愛・シスターフッドが中心なので、ギャグ漫画とはいえ、うららのような少女は稀です。

 空気系・日常系百合アニメの多くとは違い、『さばげぶっ!』にはイケメンキャラも登場はしますが活躍しません。一話限りのチョイ役がほとんどです。主人公モモカたちに勝負で負けたリベンジにモモカの高校に潜入するイケメン男子高校生集団が、女装に目覚めたことによりリベンジすることを放棄してしまうというというエピソードまであり、『さばげぶっ』においては男女の恋愛は今のところ描かれていません。

 イケメンたちが登場しては活躍せず消え、流れ忘れられていく一方で、インターネットスラング満載の話し方かつ頭にはバンダナ、ボトムにダサトレーナーインの肥満体で、モモカに暴力を振る舞われても「ご褒美ありがとうございまつ!」と喜ぶディープなおたく男性「からあげ☆レモン」は、当初の予定では一話限りのキャラクターであったはずが、『なかよし』読者の女児から人気で準レギュラーキャラになったという経緯があります。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」

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