インタビュー

傷口をえぐる過去の記憶と向き合う。元メンヘラ・小野美由紀『傷口から人生。』インタビュー

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 2015年2月上旬に幻冬舎文庫からリリースされ、瞬く間にamazonで入荷待ち状態になった話題の書『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(小野美由紀)。同書ではサブタイトル通り、自傷癖のあった中学時代のことや、就活中にパニック障害を発症して就職全滅したこと、大学デビュー後の痛々しい恋愛などが、著者自身の傷口をヒリヒリえぐるかのように鮮やかに記されている。

 著者は25ある章のひとつひとつで小さな「気づき」を得て、ほんの少しずつ剥けていく。目を見て話してくれない母親との葛藤。低すぎる自己肯定感。男からの好意を搾取して悦に入る青さ。時に目を背けたくなる醜悪さを見せる己自身の過去……つまり“黒歴史”は誰でも持っているものだと思う。しかし著者はそれを一切美化せず、エグいままきっちり文字にして対峙する姿勢を見せた。とりわけ「自分が他人を傷つけたこと」を自覚するのは勇気がいる。それを描ききった小野さんに、もっと詳しく話を聞きたいと思った。

狂ったようにモテて愛される自分になりたかった

小野美由紀

春めいた装いが素敵な小野さん。

――『傷口から人生』は自叙伝で、自傷とか就活とか毒親とか、エピソードが含有する問題は多岐にわたります。今回の取材では、恋愛面にフォーカスしたいと思っています。

小野 恋愛ってことは、必然的に「六本木のまんこ」の話が?

――はい。慶應大学に進学して、仮面浪人として予備校生活を送りながら、六本木のキャバクラでアルバイトしていた当時のお話に興味があります。キラキラした男女が目立つキャンパスで同じように輝くため、小野さんは「CanCam」(小学館)を読みマルイで洋服を買いサークルの先輩と付き合いますが、その路線はうまくいかず、「女の性が最大の価値を持つ場所=六本木のキャバクラ」で受け入れてもらって、自分の価値を証明したかったと。「狂ったようにモテたかった」という記述もあって、すごくソソられました。

小野 中高のときに絶望的にモテなかったんですよ。中学時代なんて、男子からブスブスってからかわれましたし。でも、高校までは勉強さえできれば親には認められると思っていて、自分のアイデンティティは「勉強」だったんです。でも大学受験で第一志望のところへ行けず、仕方なく慶應に入ったら、女性の評価軸が「勉強」ではなかった。

――学部によって多少差はあるにせよ、同じキャンパスにいる人たちは、同じ受験をくぐりぬけてきたメンツであり、ほぼ同偏差値であるという前提がありますからね。

小野 容姿とかモテとかがココでは重要なんだ、と知って。慶應って東大落ちのこじらせ系が多いんですが、私も典型的なそのひとりで、「慶應のノリって本当に無理だわ」って早々に思いました。苦しいっていうか……ここに混じるのは無理だろうって思ったんです。でもサークルは中途半端に所属したい、みたいな。……とにかく中途半端なんですよ。自分の外側に基準を置いてるから。

――自分の外側に。自分の軸じゃなくて、外部の規範を優先してしまうってことですよね。

小野 私、「ねばならない」がめちゃくちゃ強くて。『傷口から人生。』は全編通して、「××でなければならない」という外的規範に縛られて自己肯定感がめちゃくちゃに低かった人が、ひとつひとつの「ねばならない」を取り外していく話なのかもしれない。

――25の章ごとに、丁寧に「ねばならない」をひとつずつ取り除いていると感じました。慶應入学時のマインドに話を戻しますと、「このチャラついた大学に入ったからには、自分の価値を高めるためにCanCamっぽく“ならねばならない”」と思い込んでいたんですか?

小野 そうそう。ピンクのニットを着なければならない。マルイで服を買わなくてはならない。甲高い声で喋らなければならない。私、地声低めなのに、この頃は1オクターブ高い声を出す発声練習を夜中にひとりでしていたんですよ。「高い声じゃないとモテない」って思い込みがあったので。

――地道な練習の成果か、入学してわりとすぐに初めての彼氏ができますよね。

小野 そうですね。でもその人の前では演技していたので、地声とか聞かせたことなかったと思います。初エッチのときも「高い声で喘がねばならない」、みたいな(笑)。

――相手のことを好きって気持ちはどのくらいありました?

小野 それなりにあったと思うんですけど、別に好きだからエッチしたいというよりは「早く処女捨てなきゃ」「イケてる自分にならなきゃ」って気持ちのほうが強かったと思います。いや、「処女捨てたい」っていうよりは……「人から愛されたい」っていう気持ちがすごい強かったんじゃないですかね。

――その「人」と「彼氏」はイコールではない?

小野 そうですね。

――人から愛される自分になりたい。

小野 うん。「1オクターブ高い声でなければならない」という思い込みを解消できたのが、六本木で3カ月働いた経験と、その後、銀座の老舗クラブに移ってからの経験のおかげです。銀座では、60~70歳代の熟練ホステスさんも現役で働いているお店だったんですが、お姉さんたちはみんな、ぶっちゃけ容姿の良さじゃなくてキャラの濃さでお客に愛されていたんですよ。「モンスターズインク」のモンスターみたいな人ばっかりで、愛想が良いわけでもないし、お客さんに媚びたりもしない。70代のママはお客さんの話なんてちっとも聞かず、「私は空中浮遊したことがあるの」とか楽しそうに繰り広げるし、マツコ・デラックス似のおばさんホステスが、大企業の重役をはべらせたりしてる。若くて可愛いヘルプと喋っていたお客さんが、結局は50代のキツ~い性格で有名なおばさんホステスの虜になってたりとか。一般的な女性に向けて書かれる恋愛マニュアルって、「男の子の話を聞きましょう」とか「すご~い、さすが、そうですね」の3Sを実践しよう、とか書いてあるじゃないですか。でも、銀座はそんなメソッド通りでは全くなかった。「私の信じていたモテルールって何だったんだ?」って思って、そこから自分が男性に対して演技をせず、素を出せるようになっていきました。

――画一的なぶりっ子演技で惚れてくれる男性には、こちら側も魅力を感じなかったりしますしね。じゃあ、大学2~3年生くらいの段階で、「モテ」に関する「ねばならない」は取り外せたんですね。

小野 そうですね。でもそうしたら私、恋愛やくざに転向しちゃいまして(笑)。本にも書きましたが、単純に言うと調子に乗った、というか。素のままの自分でモテるんじゃん、イエーイ! って恋愛を楽しみ始めた瞬間に、私は「男を搾取する」ことをやり始めてしまったんですよ。

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