インタビュー

愛情だけでは、子供の問題は解決しない 『学校へ行けない僕と9人の先生』棚園正一×荻上チキ

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 『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)は、漫画家・棚園正一さんが、不登校児だった小学生から中学校までの体験を基に描かれた作品だ。この作品には、「いじめ」や「不登校」など、学校やその周辺で起きる様々な問題が描かれている。前編では、「いじめ」をテーマに、NPO「ストップいじめ! ナビ」の代表を務め、評論家として活躍する荻上チキさんと棚園正一さんとの対談をお送りしたが、後編からは「不登校」「先生の量と質を向上させる方法」そして「親に出来ること」について語り合った。(前編はこちら

先生の独裁者化を防ぐ「1学級2人制」

(C)棚園正一/双葉社

(C)棚園正一/双葉社

荻上 不登校になってから、黒い帽子とマントをつけた男が、棚園さんの頭の中に現れるようになっていますよね。あれっていつ頃から見えなくなりました?

棚園 小学3年生くらいにはだんだんと見えなくなってきました。たぶん学校に行くことへのプレッシャーが弱まってきたんだと思います。

荻上 学校に通えなくなると当然学力が落ちますし、社交性を身に着ける機会もなくなります。また学力の低下によって学歴が落ちると、長期的な生涯賃金も下がってしまう。場合によっては、生涯で数千万単位の収入のロスにも繋がります。これは、本人はもちろん、国にとっても損失で、それだけ収入が減るということは納税額が減るということです。さらに人によっては、社会保障の受給者にもなるでしょう。国からすれば、社会保障費が膨らむ要因にもなる。

であれば、先行投資が重要です。学校に通わなくても就労できるような学力を身につけられる状況、つまり「学校以外のオプション」を育てることと、学校にそもそも行きたくないと思わせないようにすること、つまり「学校のバージョンアップ」を進めることです。どちらもが必要なんですが、今はそうなっていないんですよね。

ちなみに、病院で箱庭治療を受けている描写がありましたが、投薬などはされていたんですか?

棚園 いえ、ありませんでした。診断名も聞いていません。

荻上 疾患名だけでなく、発達障害などの障害名もない。

棚園 そうですね。

荻上 大事なポイントだと思います。学校の授業についていけなくなるシーンがありますよね。その理由は描かれていませんが、不登校で学校に行っていなかったからかもしれませんし、他の人であれば発達障害などを抱えていることが原因かもしれない。

2005年に発達障害支援法が施行されたことで、早めに発達障害を発見し、医療機関や各地にある発達障害支援センターといった機関に繋げるような政策にシフトされ、各地で様々な取り組みが行われるようになりました。若いうちから支援することで、不得意な部分を補いつつ、得意な部分を伸ばすことができる。早期に発見されれば、親も「どうしてできないの」と長い間悩まずに、できないことは当たり前という前提のもとで、対応など学べる。

棚園 実際にどのような取り組みがあるんですか?

荻上 支援センターでは、個人の特性に合わせて、言語学習とか集団生活などのプログラムを受けます。必要な療育をサポートするという形ですね。それと同時に昨今の重要な変化としては、たとえば僕の地元の子ども園では担任の先生が2人いて、それとはまた別に「介助の先生」が1人という体制をとっているんですね。みんなが歌っているのに歌えない子とか、座っていないといけない場面で立ち上がっちゃう子とか、しばらく入院していて授業についていけない子っているじゃないですか。そんなときに介助の先生が横について、「今は歌を歌うんだよ」とか「ちょっと散歩しに行こう」とかサポートをする。

もともと日本の先生って、他の国の先生に比べて、労働時間が長期化しています。会議とか部活動に時間が割かれて生徒に向き合う時間がとれない上に、いじめや不登校、発達障害への対応など、「新しい対応」も増えてきた。いじめや不登校問題に取り組むために少人数学級にしようという議論がこれまでされてきたんですが、一人の親としては、小中学校でも「1学級2人+α制」の導入が行われれば助かるなあと思っています。発達障害を持つ児童への支援方法が、別の課題を抱える児童に対して応用できるんじゃないかと。棚園さんは今の話、どう思いますか?

棚園 うーん……実際に体験しないとなんとも言えませんが、ひとつの色に染まらないって事は大事だと思います。

荻上 先生同士が毎回子供の前で喧嘩し始めたら最低ですけどね(笑)。

棚園 どちらにしても先生の質も大事ですよね。

荻上 ええ。政策になるとすれば効果検証も必要ですしね。もともと教師の労働時間の増加傾向と、「教師一人当たり児童数」が多いという問題点はあるので、教育効果の前に労働環境改善という観点も重要ですが、問題発見率が上がれば、その分解決事例も増えますからね。なんといっても、教室で教師一人が「独裁者化」することも防げる。

棚園 なるほど。

荻上 1学級2人制だと、片方の先生が妊娠や病気で休みやすくなるんですよね。半年くらい休暇をとって研究をするという期間を設けられれば、先生の質を向上する試みもできる。もちろん、財源の問題があるわけですが、希望としてはありますね。

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