適切な機関へアクセスする能力
――最後に、離婚を通して得た……
かえで 思ったのが! 夫婦が離婚して、離婚届を出す時に、「次に何をしてください」ってサポートステップがあっても良いんじゃないかってことです!
――すごい強く思ったんですね。具体的には?
かえで たとえばですけど、例として専業主婦の人って無職ですよね。でも離婚して就職するんだったら、就職支援の窓口にも行っておいたほうがいいと思うし、年収が低ければ住宅補助を受けられたりもするわけですよ。離婚届を出すために市役所に行くんだったら、絶対その役所内のいろいろな部署にアクセスしたほうがいいですよ。離婚届を受け取る窓口の人も、「こういう不安があればこの窓口に行くといいですよ」とか、教えてくれたらいいのにーって思ったんです。というのも、私の場合は養育する子供たちがいるので、元夫の社会保険から彼らをいったん除いて、国民保険に加入した状態で、そのあと私の社会保険に入れるという面倒な手続きがあったり、保育関連の窓口へ行って「ひとり親になりましたー、何かやっておいたほうがいいことありますか?」ときいたり、いろいろやったんですね。ほぼ一日がかりで疲れましたけど、具体的にその市民が次にどういう行動を取ったら良いのかを途切れず示してくれる窓口があったら実用的なのになーって思ったり。まあ、システマティックになりすぎても、行政が主導権握りすぎみたいになって危険ですけど。
みずき でもそれ、あると助かります。私はNPOでの仕事はパートだったので、ほとんど専業主婦状態で収入なんて月に10万円もない状況で離婚したんです。引越し先の物件を探しながら、専業主婦という立場の弱さを痛感しましたね。空いてるはずの物件でも「あーさっき埋まっちゃいました」って言われたりとか。すごい心が折れました、ここまで弱いのかって。学生の時は安定収入のある親が保証人になってくれるからすぐに物件が見つかったけれど、今は親に頼れない。そのうえ、もともと元夫が飼っていた老猫のうち、私にすごく懐いているほうを私が引き取ることになったので、「ペット可物件」を見つけなければならなくて無理ゲーだなと思いました。
――それって、敷金礼金や家賃は、みずきさんが払える妥当な額なのに断られるんですか?
みずき そうです。元夫からの慰謝料と財産分与で、敷金礼金と当面の家賃は工面できているし、離婚したことでNPOの仕事もパートからちゃんとした職員になる予定で話が進んでいるのに、NOなんです。
かえで ああー、昨年の収入の目安がないですもんね。あゆこさんは、すんなり行きました?
あゆこ 会社員として働いてましたし、転職もスムーズだったので、大丈夫でした。かえでさんのおっしゃるような行政の支援は、女性センターにありますよ。自立支援講座や、弁護士の紹介、就職のサポートとかもしてもらえるので、そういう人は地域の女性センターとかに相談してみると良いかも。夫から身を隠すためのシェルターや、収入が少ない女性のための寮とかもありますし。みずきさんも、今は物件が決まったようで何よりですが、センターにアクセスしたらもっと早く決まったかもしれないですね。
――ただでさえメンタルをやられている状態で、役所の窓口を訪れても、必要な情報に辿り着く前にギブしてしまうかも、と思います。追い詰められて、冷静な判断力を失っている状態だったりもしますし。
あゆこ そうですよね。グーグルとかで「女性 離婚 相談」などのワードで調べたり、DVだったら「DV 相談 地区(たとえば東京都)」で調べると良いと思います。就職支援やメンタル面でのサポートなど、探せばいろいろあります。それに私もかえでさんと同じで、浮気に気付いてから精神安定剤や睡眠導入剤を服用するようになったんですけど、最初に精神科の初診予約を電話でするまで、何度も逡巡しました。「私、そんな、精神科に行くほど病んでない……」「睡眠剤なんて、安定剤なんて……」とか、偏見にとらわれていたんです。すごく状態が悪化するまで我慢してしまっていた。でも今となっては、もっと早くにさっさと行っておけば良かったって思います。
かえで 「自分は普通だ」って思いたかったのかな。でも、精神科通院してても普通は普通ですよ。「誰でもいいから殺してみたい」なんて理由で通行人を刺したりとかしないし。眠れないのを我慢し続けるよりは、服用したほうがいい。なんか、ハードルが高いんですよね精神科って。胃腸薬とか頭痛薬とかと同じくらい気軽な気持ちで服用してもいいんじゃないって今は思いますよ。
みずき 私は、「結婚」の価値をもっと下げてほしいって思いました。結婚と家族の価値を、みなさん高く見積もりすぎている。期待もしすぎている。絆をちやほやしすぎだと思いますね。愛の力とか感情という不安定なものを重視しすぎな感じがます。
あゆこ 結婚したらみんな幸せになれるはずだ!みたいな思い込みがありますよね。ウェディング産業的にはその幻想が必須でしょうけど、結婚=幸せなんてそんな単純なものじゃないことは、考えなくたってわかるはず。なのに、「幸せじゃないのは私が悪い。私の努力が足りないからだ」って思考回路に私ははまっていました。
みずき 我慢の上に成り立つ幸せなんて。
かえで そもそも結婚なんて、女が我慢するものだっていう概念があるでしょう。
みずき 結婚しなくてもいいよ、って、私は言っていきたい。結婚しないと幸せじゃないなんて嘘。離婚が不幸だっていうのも嘘。私の場合、結婚が不幸のはじまりで、離婚が幸せの第一歩です。
あゆこ 選択できるかどうか、なんですよ。結婚しなければいけない、離婚してはいけない、なんて決め付けがおかしい。結婚しなくてもいいし、離婚してもいい。その選択肢があることを、今もなお我慢している人たちに知ってほしい。選択肢がなくて「こうするしかないんだ」って思い詰めちゃうことが、一番怖いですから。
(構成/水品佳代)
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