キョロ充をナンパに向かわせるものは一体何か
清田 セックスするためのマニュアル、アンチに対する理論武装、「本当の愛を見つける」という大義名分、「君はイケてるグループの一員」というプライドをそそる承認、課題の発見と成長のプログラム、「みんなもやってる」という一体感、自分を安全なポジションに置ける安心感……こういったものをまるっと提供してくれる恋愛工学って、つくづくキョロ充が飛びつきそうな商材だなあと感じる。
佐藤 だとしたら、キョロ充たちはなぜそういったものを求めるんだろう? 恋愛工学について考えるなら、多くの男子の中に存在する“キョロ充性”について深く掘っていく必要があるように感じる。
清田 それで言うと気になるのは、受講生たちのブログを読んでいるとさ、みんな笑っちゃうくらい「美女を抱く」ってことにこだわってるじゃない?
佐藤 そもそも恋愛工学って、藤沢さんが定義するところの「中の上(=スト値6)」以上のレベルの女性とセックスすることを目標に開発されたシステムみたいだしね。
清田 だから、みんな異様にその数値にこだわっている。「スト値5以下の女子に投下するリソースはない」とか堂々と書いてる人もいて、そりゃ炎上するわなって話なんだけど、そういうものを読んでると、「この人たちってまだ教室の中にいるんだな……」って感じがしてくるのよ。
佐藤 教室って?
清田 つまり、メンタリティが学校にいるときのままというか。キョロ充ってさ、いわゆるスクールカースト的に言えば、それこそ「中の中」とか「中の下」ってポジションになると思う。イケてるグループではないけど、かといって最下層の非モテ層でもない。
佐藤 まあ、大体の人がその層に入るよね……。実は一番数が多かったりする層かも。
清田 で、恋愛工学の受講生たちが目指しているのって、要するに「教室でイマイチ目立たなかった俺が、学年一の美女とセックスできるなんて!」というサクセスストーリーなんだと思う。ランク意識に囚われているのは多分、中途半端なプライドとコンプレックスを抱えたまま学生時代を過ごしてきたからではないかと。
佐藤 キョロ充って、非モテグループを見下してプライドを保つ一方、ヤンキーや人気者に嫉妬しつつ媚びるという態度を取るもんね……。
清田 そうそう。非モテをこじらせた人ほどの強烈なコンプレックスはない。でも、モテるためにめっちゃ努力してきたわけでもない。“教室で浮かない程度のポジション”をキープしたまま大人になっちゃって、何とな〜く満たされないプライドと、放置したままの薄〜い劣等感が、徐々に徐々に腐敗臭を放ってきた。そういう中で、藤沢数希が提供する完璧に整備されたシステムに飛びついたのではないか……。
佐藤 自分に対する見積もりと現実の自分が、ずっと乖離したままだったんだろうなあ。そのモヤモヤは何となくわかる。恋愛工学のメソッドって、突きつめると「パターンを身につけ、自信満々に振る舞えばセックスできる」ってことを言ってるじゃない?
清田 ビビったり迷ったりすることを「非モテコミット」と名づけ、これを禁止してるもんね。
佐藤 これっておそらく、高校時代とかにモテていた男子の態度をトレースしたものなんだと思う。そういうヤツらが動物的な勘でやっていたことを理論化し、誰でも再現可能なところまで落とし込んだのがこの恋愛工学なんだよ。
清田 まさにそうだね。そして藤沢数希が、「モテ男たちがやっていたのはこういうことですよ。彼らが特別スゴかったわけじゃなく、君たちにだってできることですよ」というメッセージとともに伝授していく。それによって、当時のコンプレックスを晴らす効果もあるのかもしれない。
佐藤 実際、私がナンパをしていたときも、まあことごとくガン無視されたわけですが、段々ビビらずに声をかけられるようになっていく自分に対し、「俺だってダイジョブじゃん!」「俺はチキン野郎じゃない!」って、少しずつ自信が湧いてくるような感覚がありました。
清田 それは素敵なことだと思うけど、その成長のためのコストを勝手に背負わされる女の人にとってはいい迷惑だよね。トライ&エラーを繰り返して成長していくというサイクルって、別に仕事でも趣味でも何でもできることでしょ。なのに、なぜ努力の矛先がナンパへ向くのか……。
佐藤 退屈だからのような気がするな。多分、セックス以外に興奮できることがないんだよ。しかもさ、学生時代って「モテるためには勉強やスポーツやオシャレをがんばる」みたいな発想があったと思うけど、それに対して恋愛工学は、「セックスしたいなら、セックスするための努力をするのが最も効率的だ」というダイレクトな近道を提示している。そのコスパがいい感じも、キョロ充をナンパに駆り立てる一因かもしれない。