名作マンガ『ベルサイユのばら』(池田理代子)をはじめとして、激動のフランス革命を描くコンテンツは多い。登場人物も見どころもたっぷりで、ドラマティックかつ壮大なスケールの物語を構成しやすい要素に満ちているからだろう。
「ヤングジャンプ」(集英社)で2013年9号から2015年20号まで連載した『イノサン』(坂本眞一)も、その時代のベルサイユが舞台だ。この春に第一部を完結させ、「グランドジャンプ」(同)に移籍し、満を持して『イノサン Rouge(ルージュ)』と改題のうえ新たに連載スタートとなった。
第一部ではフランスの死刑執行人、シャルル=アンリ・サンソンの少年期からの成長が描かれた。貴族の子供は貴族、平民の子供は平民、貧民の子供は貧民で、処刑人の家に生まれれば処刑人になるしかない時代。純真無垢(イノサン/イノセント)で心優しき泣き虫少年だったシャルルは、残虐な処刑に抵抗感を持っていた。死刑廃止を望み、サンソン家断絶を願っていた。しかし童貞喪失以降、「主としてサンソン家一族を路頭に迷わせるわけにはいかない」と奮い立ち“立派な男”に成長を遂げる。
しかし作者は早々にシャルルへの興味を失ったと思われる。『イノサン』は話数が進むにつれて、シャルルの妹でサンソン家次女・マリーの存在感がどんどん大きくなっていく。もうひとりの主人公と言っても過言ではない……というレベルを超えて、マリーは完全に主人公の座を乗っ取った。第二部『Rouge』は、マリーをメインに据えてベルサイユ宮中で彼女が起こす“真紅の革命”が描かれていくようだ。
マリーは女であるため、家庭内で処刑人としての教育を受けなかった。しかしリボンやレース、フリル、貴族との結婚よりも「生皮を剥いだり骨を砕いたり人を吊るしたり」に強い興味を抱くマリーは、父と兄たちの会話を盗み聞きして知識を得、庭の小動物を捕らえて解剖し夥しい数のアルコール漬けを独学でつくる。わずか5~6歳で、である。処刑人になりたい。しかし処刑人には男しかなれない。女に求められる役割は結婚して種を残すのみだ。彼女は家を、そんな世界を憎んでいる。
独学で正確な解剖を行うマリーの才能を知ったシャルルは彼女の良き理解者となり、厳格な祖母によって熾烈な拷問を受けるマリーを救い出し、死刑執行人になれるようはからう。そこまでは読者も「マリー頑張れ!」の視点で読んでいける。なにしろこの祖母がまごうことなき「おっかなすぎるババア」だからだ。そして……11歳になったマリーは、血に飢えた獰猛な(とりあえず目つきの悪すぎる風貌はまるでヤンキーである)生き物に成長し、男装の処刑人デビューを果たす。最初の処刑は、彼女がまだ9歳の時に処女を奪ったロリコンクソ貴族であった。しかもその男は、親父の親友。私怨により血まみれの復讐劇に臨んだマリーは、どんどん凶暴になっていく。
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