カルチャー

彼女には、働く権利がある。『サンドラの週末』

【この記事のキーワード】
映画『サンドラの週末』

※写真はamazonより

『サンドラの週末』 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督

 クリスチャン・ディオールのミューズとして華やかなドレス姿でレッドカーペットを闊歩するフランス女優・マリオン・コティヤールが、本作ではほぼスッピンに地味なファッションで、冴えない働く主婦を演じている。

 主人公のサンドラは、幼い子ども2人と、料理人の夫と共に、小さなマイホームで暮らす女性。体調不良を理由にしばらく休職していたが、まもなく復職する予定だった。しかし、ある金曜日、突然会社から解雇を言い渡される。会社は、再び彼女を雇うと他の社員にボーナスが払えなくなるというのだ。協力的な同僚のもと、なんとか「月曜に社員投票を行い、16人の同僚のうち過半数がボーナスよりサンドラの復職を選択すれば仕事を続けられるようにする」という約束を社長にとりつける。同僚の家をひとつひとつ訪ね、ボーナスではなく自分に投票してくれるよう説得するサンドラの週末が始まる。

 主人公サンドラは、どうやら鬱を患っていた様子で、映画の始まりでは見るからに情緒不安定だ。動揺するとすぐに安定剤を飲み、復職への思いも二転三転、こんな調子で本当に仕事ができるのかと心配になってしまう観客もいるだろう。さらには、完全に回復できてない状態で仕事場に来られても迷惑だと怒りすら覚える人もいるかもしれない。

 しかし、心身共に健康な人間しか仕事をしてはいけない、なんてことは当然ないし、彼女が不安定だからと言って会社から一方的にクビを切られていい理由なんて、どこにもない、と、思い出さなければならない。彼女には、働く権利があるのだ。

サンドラを支えたもの

 現実的に、単なる職場の同僚の権利と、ボーナスという現金のどちらかを選べと言われたとき、簡単に答えを出せる人はあまりいないだろう。サンドラには働く権利があるけれども、他の社員たちにも賞与を受け取る権利がある。

 映画の登場人物たちも、協力したいのはやまやまだが、自分の生活にもお金が必要なんだとボーナスを選択することを申し訳なさそうに告げる人が大半だ。その人たちが酷いわけでも間違っているわけでも決してないし、映画はそんなことを伝えたいわけではないことは明らかである。中には、なんでお前みたいなバカ女のためにボーナスを犠牲にしなきゃならないんだと怒り出す人もいる。

 天気のいい週末に、サンドラは、一軒、また一軒と、アポなしで同僚の家を訪れ、「月曜日に再投票がある。私は仕事がしたいのだ」と同じセリフを繰り返す。映画は、そんな彼女の姿をただ静かに見守る。

1 2

gojo

1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

gojogojo.com

[PR]
[PR]

messy新着記事一覧へ

君と歩く世界 スペシャル・プライス Blu-ray