【今回のPick upコミック】
『あそびあい(全3巻)』(新田章/講談社モーニングKC)
「付き合ったら、なんで他の人とエッチしちゃダメなの?」
清田代表(以下、清田) 今回は、「このマンガがすごい!2015」にランクインし、『ダ・ヴィンチ』7月号でも取り上げられている話題の恋愛マンガ『あそびあい』(新田章)を取り上げたいと思います。
佐藤広報(以下、佐藤) いやあ、ショッキングなマンガでしたね……。
清田 表紙の紹介文には〈“いろんな人とHしちゃう”前代未聞のヒロインと、彼女を本気で愛しちゃった純情男子〉による“恋愛残酷物語”とあるけど、確かにこれは男を絶望的な気分に叩き落とす系のマンガかもね。
佐藤 乱暴に言えば「好きな女の子が自分以外の男とヤリまくってる」って話なわけで……私は読んでてめっちゃキツくなりましたよ!
清田 ヒロインの女子高生・小谷(おたに)ヨーコは、おかっぱ頭で化粧っ気もなくて外見的には全然ヤリマンの記号を持ってないんだけど、セックスが大好きで、セフレのような相手が何人もいる。で、彼女にずっと想いを寄せ続ける男子が、同級生の山下ハルユキ。物語は、二人の関係を中心に描いていく。
佐藤 最初は山下もセフレのひとりだったんだけど、恋愛感情があるから、小谷を“独占”したがるんだよね。その後、友人のアシストもあって念願の恋人関係になるものの、嫉妬や疑念に苦しみ続け、結局は別れてしまう。私自身も極度のヤキモチ焼きなので、山下に感情移入しまくってしまい、見ていてかなりつらかったです。
清田 実際、山下は付き合ってるときに小谷の浮気現場にも遭遇しちゃうしね……。
佐藤 しかも、謎の変態紳士の家でね……。恋人が知らないオッサンとメイド姿でソフトSMしてる姿とか見たら、私はその場で死んでしまうかもしれません。
清田 山下的には絶望的な場面だと思うし、これで別れが決定的になるのも確かなんだけど、じゃあ小谷が悪いのかというと、そうとも言い切れないように思えてくるのがこのマンガのすごいところで。
佐藤 どういうこと?
清田 小谷はその後、浮気を叱責してくる山下に対し、「付き合ったら、なんで他の人とエッチしちゃダメなの?」って聞くじゃないですか。
佐藤 私は目がテンになりました。
清田 言葉だけ読むと単なる“開き直り”にも見えるんだけど、彼女は純粋にそう思って聞いているんだよね。このマンガの特徴は何と言っても小谷の“セックス観”にあると思うけど、それと合わせて考えると、めちゃくちゃ恐ろしい問いにも思えてきて……。というのも、小谷ってセックスを「愛し合う二人の創造行為」とかじゃなく、単に「楽しいこと」「気持ちいいこと」という風に捉えているじゃない?
佐藤 そうですね。ひたすら自分の欲望と快楽に忠実で、男からの誘いに応じることもあれば、自分から求めに行くこともある。
清田 さらに、家が貧乏で“勿体ない精神”にあふれる彼女にとって、セックスは「タダで楽しめる遊び」なんだよね。だから、誰と何回しようが、「したいからしただけ」「機会があったからしただけ」で、それ以上の意味もそれ以下の意味もない。
佐藤 そのピュアな感じがまた怖すぎるけど……。
清田 小谷は他にも、学校の先輩、仲良しでもない同級生、臨時の講師、近所の大学生、よくわからないひとり暮らしの男、バイト先の冴えない男など、いろんな男たちと関係を持っているけど、彼女からすると、何というか「おいしいものをごちそうしてくれる人」くらいの感覚なんだと思うのよ。
佐藤 山下のことも、同じような感覚で捉えていたんだろうね。
清田 だとすると、さっきの「付き合ったら、なんで他の人とエッチしちゃダメなの?」という問いって、どう答えるべきか、よくわからなくなってこない? 例えば「そういう決まりだから」と答えたところで、小谷はその前提を共有してないし、「俺が他の女子とエッチしてもいいの?」と聞き返しても、小谷は「いいよ」と答えるだろうし。
佐藤 確かに、どう答えていいかわからないかも。事実、山下もうまく答えられてなかったしね。
清田 よく、子どもが「何で人を殺しちゃいけないの?」って無邪気に質問して大人を困らせる場面があるけど、小谷のセリフも、それに似ているような気がして。
佐藤 何だか哲学っぽい話になってきましたね……。