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安保法制と新国立競技場は「男のプライド」だけで動いてる

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 武田砂鉄

 

 本サイトを読まれる方が日頃手にすることがないであろうオヤジ雑誌群が、いかに「男のプライド」を増長し続けているかを、その時々の記事から引っ張り出して定点観測していく本連載。

■暴力的な戯言で正しさを確かめ合うオヤジたちの、「雑誌」というサロン

 安全保障法制や新国立競技場問題など、国民に寄り添っているとは到底思えないプロジェクトが力尽くで前に進もうとしている。この2つのプロジェクトには、見事に分かりやすく「男のプライド」が濃厚に染み込んでいる。

 猪突猛進する安全保障法制の議論は、様々な角度から懸念を表明しても、返ってくる言葉が限られている。「これは戦争法案ではないか」と問えば「そんなものはレッテル貼り」と跳ね返され、問題点を細かに説明しようとすれば「早く質問しろよ!」と野次られ、最終的には「私は総理大臣なんですから」と、議論を無にする言葉を吐く。あたかも零細企業の社長のような意思決定。トップの気分次第で仕事の中身と方向が決まってしまうアレだ。

 新国立競技場は、自分のプライドの拠り所であるラグビーW杯に間に合わせることしか頭にない森喜朗の一声で、総工費が青天井で高騰していく。日本ラグビーフットボール協会会長を務め、政治理念を語る際にも「スクラム」や「ノーサイド」などのラグビー用語を頻繁に混ぜ込む彼にとっては、2019年にラグビーW杯を招致したことは何よりの誇りなのだ。朝日新聞(6月9日)のインタビューで彼は、「3、4千億円かかっても立派なものを造る。それだけのプライドが日本にあってもいいと思う。(中略)アジアの中で、さすが東京、という施設を造らないと今後様々なイベントを取られてしまう」と、ここでも零細企業の社長のように、プライドの維持を一義に仕事を動かそうとする。零細企業ならばまだしも、国家事業という枠組みでこの調子なのである。さて、この一カ月で収拾した言葉の考察に移るが、まずはやっぱり安倍首相から入りたい。

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「『アメリカの戦争に巻き込まれるのではないか』と漠然とした不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。その不安をお持ちの方に、ここではっきりと申し上げます。そのようなことは絶対にあり得ません」

安倍晋三(内閣総理大臣)/『WiLL』(2015年8月号)ワック

 論壇雑誌ならぬ「論男」雑誌は、いつでも権力者の持論を手放しで迎え入れる。議論を深めるわけではなく、「オレが言うのだから大丈夫だ」と宣言してみただけの論旨ですら、素直に受け止めてしまう。同じ例えを再三再四持ち込むが、やっぱり零細企業の社長なのだ。上記のように、外野から何を言われようとも、「この会社は大丈夫だ。絶対に大丈夫だ」と自分を奮い立たせるように意気込む社長のもとで、少なくとも僕は働きたくない。

 安全保障法制に対して高まる不安に、安倍首相がもっとも長文で返答したのが、どう転がっても自分を絶対的に支えてくれる雑誌『WiLL』である、というのが、漠然とした不安を更に高めさせる。朝日新聞の特集記事「言葉から考える安保国会」でも取り上げられていたが、安倍首相は国会答弁や記者会見で、とにかく「幸せを守る」という言葉を連呼する。人の幸せとは人それぞれに宿るものだが、いいえ私が、貴方の幸せを守り抜く、と言う。今回の寄稿「『平和安全法制』総理が国民に訴える! 私が丁寧にわかりやすくご説明します」の中でも、何度も「幸せ」を使っているが、しまいには「平和をクリエイトしていくためには何をなすべきか」と、守るだけではなく平和を作り出すと宣言しており、もう何が何だかよく分からない。

 外からの意見に耳を傾けず、持論を撫で回すだけの論旨を積み重ね、理解しがたい施策を堂々と放ってしまう。その一例が、政府が掲げる「すべての女性が輝く社会づくり」の流れから打ち出された「ジャパン・トイレ・チャレンジ」だろう。「『暮らしの質』向上検討会」がまとめた提言は、「女性が暮らしやすくなる空間へと転換する『象徴』として」トイレの美化が求められるとし、「快適なトイレを増やすための各般の取組(ジャパン・トイレ・チャレンジ)を実施すべき」としている。ちょっと、頭がどうにかしているのだろうか。引用箇所に「女性が」とあるように、トイレの価値を高めるのは女の役割らしい。

 一体、トイレをキレイにすることに、どういった狙いがあるのか。『「暮らしの質」向上検討会提言(案)』(5月25日)を読む。「コミュニケーション力や清潔好きといった力を肯定的に評価し、社会を変える原動力として根付かせるのに有効だとの思いもある。また、子育ての一段落した女性や先輩ママの経験・能力が生かされれば、我が国の社会は、生活実感に即した先輩の知恵が生かされる社会へと継続的に変わっていくと考えられる」とのこと。ママがしっかりトイレをキレイにしてくれれば、社会が変わるかもしれないと、真顔で訴えてくる人たちがいる。そんな人たちが「戦争にならない。心配しないで」と言っている。これはもう、心配しろ、という合図ではないのか。

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武田砂鉄

ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

@takedasatetsu

http://www.t-satetsu.com/

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