離婚からの貧困
「テレビ」という多くの人が目にして鵜呑みにしやすいメディアで「人妻不倫」が当然のことのように取り上げられると、大多数の既婚女性が不倫中だったり不倫願望を持っていたり、とあらぬ疑いをかけられそうで心配だ。しかし実際、筆者の周囲でも不倫経験のある既婚女性(20~30代)は3人いる。こんな媒体で記事を執筆しているから、不倫人妻と遭遇する機会があるだけ、という見方もできるが……。
ただ、共働きで子供を持たないと決めている夫婦(DINKS)ならば、不倫しようがしまいが自己責任として片づけることもできそうだが、どちらかが無職(専業主婦・主夫)で生活費を片方に頼っていたり、子供を育てていたりする場合は、話が変わってくる。無職ではないにしても、いち会社員として働く既婚者は、タレント活動のほかにアパレル業やパワーストーン販売で年商50億ともいわれる稼ぎを持つ千秋とは、経済的自立度がまるで違うのだ。
仮に「離婚したい」と望んで結婚生活を解消したとしても、その後、経済的、あるいは体力的、精神的に追い詰められてしまう可能性は誰にでもある。
それを見越して、『ナイナイアンサー』で「離婚をすすめない」という提案をしていたのが、室井佑月(43)だ。室井はプレイボーイで有名な作家の高橋源一郎と結婚して長男をもうけたが3年で離婚。シングルマザーの道を歩んできた。そんな彼女は、
室井「新婚でもないのにアツアツな夫婦っているのかな?」
と、「夫をもう好きじゃないから不倫する」という妻たちへ疑問を呈する。彼女いわく、「ずっとアツアツな夫婦も知ってるけど、それは変態だけ(笑)! 特殊な趣味なんだよ」。
彼女はこの数年、子供の貧困問題について勉強しているという。そして、子供の貧困で悩んでいる家庭は、「シングルマザーがすごく多い」ということがわかった。夫婦仲が冷めきったから、という理由で離婚した場合、仮に夫側から慰謝料を受け取れたとしても、約100~300万円が相場。
室井「子供がいて、どれだけその慰謝料で食べていけると思う?」
さらに、離婚成立時に課せられた養育費も、払わなくなってしまう父親がほとんどで、「10人中、1人払い続けてるかどうか」というレベルだという。
室井は、子供をもうけた場合、夫婦に共通する最大の目的は「子供を育てること」になると言う。その目的を達成するためには、離婚は得策でないという考えに彼女は至った。
室井「子供を育てていくことを優先順位一番に考えた場合、ラブラブじゃなくなって顔を合わせてもフンってなる程度の“嫌い”だったら、一緒にいた方がいいと思うのね。私は(シングルで)頑張って働いているけれど、一度自分のすい臓に腫瘍ができたとき、すごく怖かったわけ。夫婦だったら、どっちかが倒れても、もう一人がいるじゃない」
彼女は05年冬に、すい臓に腫瘍が見つかり、すい臓の半分と脾臓を摘出する手術を受けている。現在彼女の息子は中学生だが、当時まだ幼かったことを考えると、病気が発覚したときの彼女の「怖さ」は容易に想像できる。「私が死んだら、一体誰がこの子を育てるのか」。
室井「夫婦の目的が『子供を育てること』だと考えるのであれば、全然愛してなくても目的を同じものとする同志なわけですよ。だったら(ダブルインカムでないなら)旦那さんは外で頑張って働いてきてもらったほうがいいでしょ、それならいい気分でいてもらったほうがいい。妻は旦那がいい気分になることはすべきだと思うのね。夜遅く帰ってくるんだけどみそ汁をあっためてあげるとか。それがちょっとめんどくさいと思っても、目的を達成するためには健康で長生きしてもらったほうがいい。ごはんにおひたしを一品足したりとかさ」
自身が離婚した当時は、まだ若かったこともあって「離婚しないほうがいい」ということは気付かなかったが、自らの両親を見ていると、「離婚しないで頑張ったら、最後には意外といい夫婦になる」ということがわかったという。彼女の父親は浮気三昧の男で、彼女自身はほとんど母子家庭のような状況で育ったが、母親は離婚しなかった。しかし母が病を患って寝たきりになってしまったとき、父親は外で遊ぶのをやめて介護に専念するようになったそうだ。両親の夫婦としての在り方を目の当たりにして、室井の考え方も変わっていったようである。
では、子を持たない夫婦の目的とは何か。あるいは、子供が成人、結婚などして育てる義務がなくなったら。
とくに女性は「みんなしてるし結婚したい」「産めなくなる前に受精したい」と逸る気持ちを覚えがちだが、仮に“とりあえず”結婚して子を持ったとしても、その後、夫が職を失ったり病気や事故に遭って働けなくなる可能性はあるし、子供が亡くなることもある。また、そもそも自分が子を産めない、あるいは夫が子を作れないという場合も。そうなったときに、夫と二人きりでも互いに寄り添って暮らしていきたいと思えるかどうか。一生旦那としかセックスをしないとしても、我慢できるかどうか。
メディアは「人妻不倫」をもてはやしたり、「婚活」「妊活」を喧伝するより前に、そもそも結婚とは何なのかを考えた方がいいのではないだろうか。
(ヒポポ照子)