連載

「女性ならでは」の目線を乱発し、「女性なのに」と貶める政界とメディアの体たらく

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武田砂鉄

 

 本サイトを読まれる方が日頃手にすることがないであろうオヤジ雑誌群が、いかに「男のプライド」を増長し続けているかを、その時々の記事から引っ張り出して定点観測していく本連載。

 相も変わらず、国民を「たかが国民」としか思わない選民気取りによる、足りない知恵の暴走が続いている。自民党の武藤貴也議員がTwitterに、国会前で抗議活動を続ける学生団体SEALDsについて「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」と記したのは、「極端な利己的考えに基づく」発言で「非常に残念」だったが、こういった稚拙な妄言がいつまでも蔓延するのはなぜなのだろう。思いあぐねていたら、武藤議員の発言を受けた麻生太郎財務大臣が「自分の気持ちは法案が通ってから言ってくれ」と本音を吐露したことでその構造が見えてしまった。

 「私が総理大臣なんですから」と、ド田舎の中学校の番長でも叫ばないようなオレ様発言で異論をねじ伏せようと躍起になっている現在、その家臣たちは、番長に次ぐ大臣から「今言うと国民にバレるから後で言え」と叱られているわけだ。陳腐なやり取りが体育館の裏で起きているならばまだしも、実際にこの国を動かす面々の間で、公に交わされているのだからまったく笑えない。

 安全保証関連法案を議論する参議院の審議では、与党の質問時間が野党よりも3倍に増えている。その「良識の府」「再考の府」こと参議院で行われているのは、仲間が仲間に問いかけ、自分たちの外に立ちこめる不安をいたずらに払拭するだけの「黙認の府」である。野党が、これまでいかに後方支援部隊が狙われ死傷してきたかを具体的に伝えても、仲間たちは「後方支援は戦闘が起きている現場のすぐそばでやるという間違った考えを持っている国民がいる」(自民党・佐藤正久議員)という把握で済ませてしまう。

 これでは対話にならない。彼らお得意の火事の例えに便乗するならば、「これまでの事例では、隣の家まで火の粉が降りかかって家が燃えてしまったんですよ」と苦言を呈しているのに、「火事はそんなに燃え広がりませんよ」と答えているわけだ。彼らが口を揃える「平和安全法制」が、平和や安全について熟慮などなされていないことは明らかだが、その不安を体育館裏の不良たちのような強引な話法のみで乗り越えようとしているものだから、不安はどこまでも募る。こちらが不安を煽っているのではなく、そちらが募らせているのだ。政治家が不良中学生に見えるのは、学級崩壊のような国会論戦を見すぎたせいだろか。今回は、そんな不良たちを献身的に慰め続ける女性の弁から入ろう。

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「韓国に対するヘイトスピーチが行われるようになったのも、中国や韓国の横暴と歴史のねつ造に加え、それを後押しするような国内メディアへの鬱憤もあるのではないでしょうか」

櫻井よしこ/『櫻井よしこ責任編集 増刊SAPIO』(2015年8月増刊)小学館

 これだけヘイトスピーチが社会問題と化していようとも、ヘイトスピーチを向けられるほうも悪いのです、と責めたてるかのような弁舌に呆れる。「苦言を呈したいと思います。相手を批判をする時には明白な事実と、冷静さをもって行なうべきです。中国や韓国と同じ土俵に乗るのでは、国際社会から『日本も同じ』と見られてしまいます」と付け加えているが、差別行為をあたかも喧嘩かのように仕立て上げることで、間接的に肯定している。昨年7月に国連人権委員会が日本に対して、ヘイトスピーチなど人種差別を助長する行為の禁止を勧告していることなどご存じないのだろう。

 安保法制に反対する国会前で繰り広げられているデモを取材した産經新聞の記者は「政界徒然草」という記事の中で、デモを「倫理的に問題のある『ヘイトスピーチ』といって過言ではない」(7月29日)と記しており、閉口する。「単なる不快な表現ではなく、国籍、民族、性などの属性を理由に、マイノリティの人間としての尊厳を否定する言葉の暴力であり、差別や暴力を社会に蔓延させる差別煽動」(師岡康子・『ヘイトスピーチとは何か』著者)と、その定義を何度繰り返し説明しても、マジョリティに向かう批判までをもヘイトスピーチだと括り、「そっちだって下品だ」と正論のつもりで放ってくる。政権の指針にどこまでも従順な論客や新聞が仕掛ける煽動の不正確さが散見される。この手の分かりやすい不正確は、彼らが後押しする平和安全法制という言い分を鵜呑みにしてはいけないというシグナルにもなるのではないか。

 櫻井よしこが理事長を務める「公益財団法人 国家基本問題研究所」は全国紙に広告を打った。櫻井氏の顔写真がデカデカと載る横に、「安保法制が『戦争法案』ですって?」とメッセージを掲げ、その主張を記した文章には「一部野党や市民団体を名乗る安保法制反対勢力は、国民のリスク軽減を語らず、憲法違反とのレッテルさえ貼っています。国会における党利党略は日本の国力を削ぎ、悪辣な国を喜ばせるだけです」とある。

 国民のリスク軽減を語らないのは国民のリスクが増大することが明らかであるからだが、この手のいたちごっこを続けておけば、数的優位と「私が総理大臣なんですから」のスローガンが強固にタッグを組み、望む通りの行き先に事を運ばせることができる。その数と声を担保にした上で、中国がね、韓国がね、と外への悪口を内々に投じて、肯定の度合を高める。「日本の国柄は、ひとりひとりの人間を大切にし、世界の国々を平等に扱うというもの」ではないか……と、書いているのは私ではなく、この増刊号の巻頭言を記した櫻井氏である。「世界の国々を平等に扱う」と書いた人が「悪辣な国を喜ばせる」と宣言した意見広告に登場しているわけだが、自身の言動がブレているとお感じにはならないのだろうか。

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武田砂鉄

ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

@takedasatetsu

http://www.t-satetsu.com/

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