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初体験はどちらから? 『東京タラレバ娘』からみる男女恋愛不平等論

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東京タラレバ娘

東村アキコ『東京タラレバ娘』一巻、二巻(講談社)

 みなさん、はじめまして。今回からmessyで漫画や映画などのサブカルチャーからニュースまで、様々な分野を通じて、読者のみなさまと「女性の生き方」について考える連載を始めることになりました永田夏来です。ぜひ、親しみを込めて「さにはに先生」と呼んでください。

 普段は大学で、少子化対策の分析だとか、結婚にはどんな意味があるのかだとか、若者にとってのセックスとは? など、若者の恋愛と結婚について研究をしています。この連載では、折に触れて私の専門である「家族社会学」などの知見も紹介していきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

『タラレバ』の破壊力は「結婚至上主義」と「恋愛の保守性」にあり!

 さて、記念すべき初回は、『このマンガがすごい! 2015』(宝島社)オンナ編 第2位を受賞した東村アキコ先生の『東京タラレバ娘』(講談社)です。8月12日には最新刊の第3巻が発売されています。今回はこの作品を通じて、現代日本における「女性の生き方」を紐解いていきましょう。

 本作は「そんなにイケてないはずじゃなかった」のに、気がついたらアラサーになっていた女子3人が立てた「東京オリンピックまでに結婚する」という目標をめぐって繰り広げられるドタバタ恋愛が支柱となっています。アラサー女子の結婚狂想曲はラブコメの定番という気もしますが、ネットでは「とにかく刺さる」という感想だけでなく「精神的リスカ」とまで言ってのける不穏な呟きまで……(かくいう私もあまりの破壊力に、落ち着いて原稿を書くまでしばらく時間が必要でした)。

 ここでは『タラレバ』の破壊力の背景にある「結婚至上主義」「恋愛の保守性」という2つの視点を指摘したいと思います。

結婚=理想的な相手+年齢制限?

 本作の主人公は「ネットドラマのシナリオライター」の倫子(33歳)です。アシスタントを雇って表参道に事務所を構える彼女は、急なデートの勝負服にもポンとお金を出せる「自立した働く女性」。その上、美人で巨乳、貯金もあるという設定も踏まえると、働く女子の中でも「勝ち組」に属すると言えるでしょう。倫子の友人たちも、表参道でネイルサロンを経営している香(33歳)、都内の居酒屋の一人娘小雪(33歳)と、いずれもキラキラ感の溢れる人物が顔をそろえています。

 「40歳まで独身だったらヤバい」「酔って転んで男に抱えてもらうのは25歳まで」など、「結婚」と「年齢」が重要なキーワードとしてたびたび出てくる『タラレバ』ですが、これは現代的な現象のように思います。

 読者の皆さんは「理想的な相手と結婚したい」と「ある程度の年齢までに結婚したい」のどちらの考えを重視しますか? 国立社会保障人口問題研究所が継続的に行っている、独身者の結婚の意思についての調査によると、1980年代までは「ある程度の年齢までに結婚したい」と考えている人が過半数を超えています。「この人だ!」という確信を持てなくても、ある程度の年齢になったら結婚していた、当時の社会状況があらわれていると言えるでしょう。

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 しかし90年代に入ると、徐々に結婚に対する考え方が「年齢」から「結婚相手としての確信が持てるかどうか(理想の相手)」にシフトし、2002年には「理想の相手がみつかるまで結婚しなくてもかまわない」が過半数となります。「歳なんて関係ないよ。好きかどうかが大事だよ」という基準が多数派になったのは、この20年ぐらいの現象なのです。

 こうした状況に対して警鐘が鳴らされます。1999年の「パラサイトシングル」や2008年の「婚活」です。その脅しが効いたのか、現在では再び「年齢で結婚を決めたい」としている人が多数派になっています。ただ、その内実は「年齢」が強い前提となっていた80年代と異なり、「確信が持てる相手(理想の相手)」という前提に「ある程度の年齢までに」という条件が加わっているのが実際なのではないかと私は考えています。

 倫子のように、オリンピック開催までに(つまりある程度の年齢までに)結婚したい(ただし納得できる相手と)と焦るのは、2015年における独身アラサー女性に共通の心の叫びなのです。

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永田夏来

さにはに先生。ニックネームの由来は"SUNNYFUNNY"(パラッパラッパーというゲームのキャラクター)→"さにふぁに"→"さにはに"です。1973年長崎県生まれ。2004年に早稲田大学にて博士(人間科学)を取得後、現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科助教。専門は家族社会学ですが、インターネットや音楽、漫画などのサブカルチャーにも関心を持っています。

twitter:@sunnyfunny99

永田夏来研究室

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