ゆるふわ、森ガール、肉食系女子……、かつては艶女などというのもございました。女性の振る舞いとファッションをめぐる言葉の流行は、まさしく生え馬の目を射抜くような速度で移り変わってゆくものでございます。耳目が敏感な女性がその流行の波を乗りこなしゆくことによって、言葉は踊り、経済が回っていく。
女性たちはどうして流行に乗らなくてはならないのか。世の男性の愛や注目を得るため? それとも自己満足のため? その問いはあまりにも大きすぎ、わたくしのような凡夫には到底答えられるものではございませんが、ここでそうした女性たちに対する男性からの言葉をインターネットの海から拾い上げてみましょう。
・“ババアのたわごと”
・“ビッチお断り”
・“またマスゴミに踊らされてるブスどもが”
なんともひどいものです。ここには建設的な意見など何ひとつない。貴女の消費活動がこのような呪詛めいた言葉に気兼ねする必要はございません。貴女は貴女のために(あの遠目にみると裸にみえる)シャーベットピンクの上着を着て、学校やオフィスや、ママ友たちの集いへ出掛けてもかまわないのです。そこでは貴女と同じく耳目敏感な女性がおり、貴女と同じ流行の服を着ている。彼女は貴女を見て言います。
「あー! またかぶった~!! わたしたち、すっごいかぶるよね~」
そう、こんな風に女性同士の仲の良い間柄を確認するためにもファッションは機能している。
「なんか、あのコ最近ダサくない?」
一方、こんな陰口を叩かれないために洋服を買い、化粧品を揃えるのだとしたら……それはまるで牢獄でうまく生きるための消費ではありませんか。
その活動に馴染めない女性たちが、最近では「こじらせ女子」と呼ばれているのかもしれません。自由な貴女には牢獄から恐る恐るでも抜け出す自由がある。しかし、自由を謳歌する恐怖に負けて女子でありつづけること、それがこじらせへの第一歩なのか……。言葉とは不思議なもので、「こじらせ女子」と一度名付けられるとなんとなく安心してしまいます。原因不明の不調が診断によって楽になるように。しかし、残念ながらもう貴女には「こじらせ著名人」としての座席は残されていないようです。
女性たちが流行をなぞって消費をおこなうのには、端的な幸福の追求があるはずです。しかし、その営みを細かく見れば見るほど、苦しさや物悲しさが漂ってしまう気さえします。
申し遅れましたが、わたくし、カエターノ・武野・コインブラと申します。普段はしがない会社員をやっておりますが、マーケティングとコンサルティングで培った目線で、女性に向けられ日々放たれるメディアの言葉を分析し、女性たちの幸福を導かんとこうして筆をとらせていただいております。乱文ではございますが、女性が流行に翻弄され溜息をついて寝入る夜が、一晩でも少なくなる、そうした手助けが当コラムでできれば幸甚です。
■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。