カルチャー

恋愛でも友情でもない中年男女の関係『しあわせへのまわり道』

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『しあわせへのまわり道』公式HPより

『しあわせへのまわり道』公式HPより

『しあわせへのまわり道』    イゼベル・コイシェ監督

 ニューヨークのマンハッタンで、昼は自動車教習の教官として、夜はタクシー運転手として働くインド系移民の男性・ダルワーンは、ある日、一組の中年夫婦を客として乗せる。ケンカ中のふたりは、どうやら、離婚の危機にあるようだ。激しく夫の浮気を責め立てる妻にうんざりした夫は、先にひとりで降車してしまう。ダルワーンは寡黙な運転手として粛々とタクシーに残された妻・ウェンディを自宅まで送り届けたものの、彼女の忘れ物に気付き、後日それを届けにいったことからふたりの、奇妙だけれども、かけがえのない関係が始まる。

 シンプルだが洗練されたファッションに身を包み、いかにも都会のキャリアウーマン風のウェンディは、事実、マンハッタンの一等地に住みながら人気書評家として活躍し、自称学者の夫を経済的に支え、ひとり娘も立派に大学にまで行かせた自信に満ちた女性だ。客観的には、仕事もお金も家族にも恵まれたなにひとつ不自由のない人生を送っているように見える。しかしある日突然、21年間連れ添った夫が「君は僕ではなく文字しか見ていない……」と言い残して若い浮気相手の元に去ったことにより、それまで順風満帆だった人生が一気にどん底に落ちる。

 夫との復縁を望むウェンディだが、想像以上にシビアな現実を前に、過去にこだわることをやめ、まず、今まで夫任せにしていた車の運転を身につけることで、新しい一歩を踏み出そうと決意する。そして、偶然出会ったダルワーンに、運転の指導を依頼するのだ。

 ちょっとしたことでいちいち動揺するウェンディに対し、言葉は少ないものの、根気強く誠実な対応を続けるダルワーン。何度もふたりで一台の車に乗り運転教習を続けるうち、ふたりは少しずつ心を通わせ始める。そして時間を重ねていくなかで、ダルワーンが厳格なシク教徒であり、そのことにより政治的に辛い過去を持ちアメリカに亡命してきたことや、ターバン姿を貫き通すことでマンハッタンでも差別を受ける現実など、彼の複雑な人生も見えてくる。

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gojo

1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

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