メリハリをつけることはたしかに良いことでしょう。でも、みんながみんな仏のように心が広いわけではありません。むしろ、自分よりもリアルが充実してそうな人を厳しい目で見てしまう人のほうが多いのではないでしょうか。「私生活が充実しているのは良いけれど、アナタほんとにそれで『バリバリ』仕事できているの? その仕事は完璧なの?」とグッサリと釘を刺される可能性もあると思うのです。その質問に「もちろん、完璧です!(じゃ、ヨガ教室があるのでこれで!!)」と返す覚悟が、アラサー女子にあるのか!? と問われれば、多くの自称メリハリOLが即答できないのでは、と推測します。
仕事の内容にもよりますがアラサーなんかまだまだ会社員としては若い部類に入るわけで、アラサー時点で「完璧です!」と言い切れる女性は、GINGERの想定する読者にはいない……と思うのです。要するに、ユルい仕事だからこそ、ユルいオフが楽しめてるだけなんじゃ……。
これを考えていくと、ユルい趣味(オーガニックデリ、ヨガ、公園ピクニック)とユルい仕事に逆の関係性も見いだせそうな気もします。オーガニック野菜を使って自分で料理するわけではなく、お店で作った料理を買って帰れるオーガニックデリ。マシン・ジムやプールで身体を鍛えるのではなく、ヨガで気持ちよくなる。山に登って大自然を感じるのでなく、公園ピクニックでビールを飲む。ユルい趣味をユルくない趣味と対比すると、ユルい趣味が持っているこの「頑張らなくても、ちょっと楽しければ良いや」という性格がハッキリしてくるかもしれません。この感覚は「仕事を頑張らなくても、ちょっと楽しい趣味ができれば良いや」とつながる気がするのです。悲しいことですが、これは「仕事を頑張らないから、ちょっと楽しい趣味ぐらいしかできない」と言い換えられるでしょう。とにかく、同僚のヨガ女にはもう少しちゃんと仕事をしてほしい。
浪費のための仕事でストレスためてりゃ世話ねえな
特集では「オフィス時間を快適にする! 働く女子のお助けグッズ」というコーナーも設けられていますが、ここで紹介されているアイテムからも「仕事を頑張ってないから、ちっちゃな快適しか得られない」という寂しいにおいが漂ってきます。上司から嫌味を言われたストレスを解消するための猫の肉球の形をしたプニプニのハンドレスト(¥1,680)、リラックス効果のあるハーブティー(¥315)、足のにおいを消すためのデオシート(オープン価格。Amazon.co.jpでは¥420)……。
もしかしてそれ、気休め程度では……と見ているこちらが悲しくなるほどの快適しか得られない自称メリハリOLは、もはや憐れみの対象となってしまうかもしれません。仕事のストレスを解消するために、消費が必要であり、消費をするためのお金を稼ぐために仕事をしなければならない……という無限機関のような労働サイクルがどんどん悲しくなってくる。
仙人男子って雲の上の幻想でしょ
頑張らないGINGER女子は、恋愛でも頑張らないことを固く決意しているようです。この特集では、いつも自然体の付き合いができる心地いい男性像が「仙人男子」と名付けられています。仙人男子は遊びも仕事も肩肘を張らず、いつも「なんか楽しそう」な雰囲気を漂わせ、ブランドに興味がなく、包容力がある男性……芸能人で言えば、奥田民生や斉藤和義、さまぁ~ず三村、星野源……となんか定義からしてイマイチよくわからない。ガツガツしてなくて自己主張も強くない(でもいざという時は導いてくれる!)ので一緒にいて楽だし、こういう人なら公園で散歩、屋外で昼から飲んでまったり過ごせると良いよね~、ということだそうですが、もしも奥田民生と付き合ったらバス釣りにガッツリつれて行かれそうで、頑張らなくてはいけない気がする。
GINGER女子の恐ろしいまでに頑な「頑張らない宣言」。しかし頑張らないでどうやって仙人男子を捕まえるのか、それが一番の問題だと思います。仙人男子はガツガツと言い寄ってこないので、女性がアクションを起こさないとただ待っているだけに終わってしまう。仮に、女性からのアプローチに成功しても、まさか最初のデートから公園で散歩……? 公園で昼からビール……? 仙人男子にいくら包容力があるからと言って、最初からそんな熟年夫婦みたいな付き合いをするって無理じゃない? 心地いいデートに成功しても、3回ぐらいデートしたあとで「なんか、一緒にいて楽なんだけど、イマイチ彼の気持ちがわからないんだよね~」と女友達に愚痴ったりしない? ……といくつもの疑問符が湧いてきます。
そもそも、心地いい、楽な関係って、付き合っていくうちに徐々にできてくるものなんじゃないでしょうか。頑張らない女子の前提から間違っているのでは……。だいたい仙人男子代表のひとり、星野源だって「頑張っている人の方が好き」って言ってました(https://mess-y.com/archives/500)。特集では「アラサー女子の『心地いい』を侵害するモンスター図鑑」という記事もあり、そこでは、さまざまなイラつくキャラ(たとえばいつも愚痴ばかりの女友達や、パワハラ系お局先輩、自意識過剰なSNS中毒女)をモンスター扱いして紹介しておりますが、自分ははっきりと「頑張らない!」宣言しているのに、こうして他人をモンスター扱いするようでは、間違いなく星野源に「心のブス」と認定されてしまうでしょう。
■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。
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