剥き出しの差別感情は恥じてください
「非実在であれ、児童ポルノ(と捉え得るもの)はすべからくけしからん! ポルノは全て男性の楽しむものだから許さん!」と断罪するような、キャサリン・マッキノンばりの思想(ラディカルフェミニズムとも異なる)からの批判もありました。
社会的に割り当てられた性差の問題であるジェンダースタディーズと、個人の多様なセクシュアリティの問題であるセクシュアリティスタディーズを混同すべきではないし、実在する児童の被害と非実在のキャラクターの性表現を混同すべきではありません。オタクを含むマジョリティではない性癖を持つ人への嫌悪表明に無自覚、または、自覚的であっても「気持ち悪いんだから嫌悪されて当然だ」と自らの差別観を容認する態度は、どのような理由があれ、「俺は差別と黒人が大嫌いだ」と同じ論理であるように思います。
オタクを含むマジョリティではない性癖を持つ人へ嫌悪表明に無自覚または、自覚的であっても容認というような、「俺は差別と黒人が大嫌いだ」と同じ論理は、8月に話題になった、明日少女隊という集団による三重県志摩市の行政公認キャラクター碧志摩メグへの公式撤回署名文の中にもありました。
行政公認の海女を応援する海女キャラクターが、当事者である海女たちの多くに快く思われていないのですから、当然、行政とデザイナーと海女たちで話し合いなどの機会を儲けるべき問題ですが、明日少女隊がインターネット上で集めた署名文には、「快く思っていない海女たちが多くいる碧志摩メグを志摩市の行政公認キャラ(そのうえ海女応援キャラ)とするのは望ましいのか?」という問題提起よりも、「メグは『女性軽視』『性的搾取』『児童ポルノ』であるから公式撤回すべき」と決めつける部分が目立っていましたし、これには、明らかにオタフォビアが含まれていました。
「オタフォビア」の問題だけでなく、「セクシュアルマイノリティ含むフェミニスト集団」を自称する明日少女隊が、(男性)オタクというマジョリティではない性癖(偏向報道など、誤解や偏見の目で見られていた文化)を持つ人へ嫌悪表明をすることは、「『ラベンダー色の脅威』とレズビアンを排除したフェミニズムの歴史」の繰り返しや、「セクシュアルマイノリティを都合良く包摂すること」に通じます。
こうした指摘に対して明日少女隊がやったことは、署名文に対する訂正や謝罪もないまま「オタクとフェミニズムは両立する」という殴り書きのプラカードを提示する写真をTwitterに投函するだけだったのですから、「フェミニズムスタディーズにとって有益なオタク・表現であれば容認する」といった、上から目線かつ、オタクにケンカを売っているととられても仕方がありません。
文章できちんと見解表明などをすることなくこうした行動を起こすことは、インターネット上でオタクたちが怒ること(そしてそれがまとめられ、オタクたちがフェミニズムに対して怒っていることが可視化される)を見越した、印象操作型の自己正当性の確立のための行動かもしれませんし、そもそもなぜ、明日少女隊は日本全国津々浦々にある「萌えおこし」の中で、サミットが行われる地の行政公認萌えキャラである「碧志摩メグ」だけを問題にしたのでしょうか。
前編では、炎上を鎮火する「社会貢献型の謝罪」や「炎上芸人・免罪体質型」や「謝罪だけで切り抜ける」事例を紹介しましたが、炎上と謝罪にまつわる事例には、こうした、「決して謝らずに自らの信じる攻撃のみに特化する」「火をつけて燃えるにまかせる」という「放火魔型」の対応もあります。
いずれにせよ、この署名が約7000人という数を集めたことの背景には、社会に「『正義』であれば方法は厭わず」という感覚が前傾化しているのではないかと思います。