連載

即物的な政治スローガンや、ただただ乱暴な雑誌広告を、素直に受け止めてはいけない。

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武田砂鉄

 

 本サイトを読まれる方が日頃手にすることがないであろうオヤジ雑誌群が、いかに「男のプライド」を増長し続けているかを、その時々の記事から引っ張り出して定点観測していく本連載。

 やはり今回は、福山雅治と吹石一恵の結婚を受けて、菅官房長官が「この結婚を機に、ママさんたちが一緒に子供を産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれたらいいなと思っています」と発言した件から入りたい。失言が極端に少ないことで知られる菅氏にしては珍しく突っ込みどころ満載の発言だが、日頃は国家に向けられた懸念を「そのような指摘は全く当たらない」などと淡々と交わしているからこそ、ハッピーな議題を前に、ついつい本音が漏れたのだろう。

 この発言を受けて、「安倍首相『新3本の矢』スピーチにあった『多子世帯への重点的な支援』と対応する。この人達は『沢山産んでもらって、女が育てる』に戻したがっている」とツイートしたのだが、たちまち「女が育てろなどと言ってない」「女性に子育てを一任させたいと安倍さんらが考えているという根拠に直結はしない」といったリプライが返ってきた。この場を借りて説明してみたい。

 唐突に「新3本の矢」を発表した安倍首相は、その会見で、現在1.4に落ち込んでいる出生率を1.8に引き上げると宣言し、これを「希望出生率」とネーミングした。誰の希望かというと、勿論ご自身のご希望にすぎず、「家族を持つことの素晴らしさが、『実感』として広がっていけば、(中略)人口が安定する『出生率2.08』も十分視野に入ってくる」という。人は、国の視野を明るくするために、子を産むわけではない。

 一般財団法人「1moreBaby応援団」の調査によれば(夫婦の出産意識調査2015)、子供1人の夫婦のうち69%が子供を2人以上欲しいと考えているが、そのうちの80%が2人目の出産をためらっているという。その理由として、実に83%もの人が「経済的な理由」を挙げた。経済的な理由とは、無論、旦那の稼ぎの多少だけではなく、共働きを維持しなければ家庭が成り立たないケースなども想定されるわけだが、人口安定の「出生率2.08」を目指す面々が押し出したのは、こういった「産みたくても産めない」状況の打開ではなかった。

 会見では、「待機児童ゼロを実現する。幼児教育の無償化も更に拡大する」というお決まりのフレーズを取り急ぎ出した後で、「三世代の同居や近居を促し、大家族で支え合うことも応援したいと思います。さらに、多子世帯への重点的な支援も行い、子育てに優しい社会を創り上げてまいります」と、彼らお得意の「伝統的な家族像」への回帰を呼び寄せる施策を投じてきたのである。

 たくさん子供を産めば、支援を重点的にします。そして、なにかと家族で助け合うようにして育てましょう……こちらを最優先にしているのは、先日組閣された第3次安倍内閣で国土交通大臣に任命された公明党・石井啓一氏が、就任会見で、早速、安倍首相から「出生率の向上を図るために三世代の近居・同居を促進する政策の検討と実施」(住宅産業新聞社)について指示を受けたと言及した事からも漂う。前回のこの連載で、東京などの都市部に住んでいる高齢者に地方へ移住してもらう「プラチナタウン」構想を画策している件に触れたが、地方創生には「プラチナタウン」を謳い、出生率向上のためには「三世代近居・同居」を謳う。一体どうしたいのだと訝しむわけだが、バランスなどとるつもりは毛頭なく、「手を打っている」という心証を取り急ぎ獲得するために、この手の重複は黙認されるのだろう。

 さて、この流れを汲みつつ、本連載で是非とも紹介しておきたい書籍に頼りながら、議論を進める。

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武田砂鉄

ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

@takedasatetsu

http://www.t-satetsu.com/

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