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「小説×舞台」のコンセプトが活かせていない不発小説 戸次重幸『ONE』

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戸次重幸『ONE』( メディアファクトリー)

戸次重幸『ONE』( メディアファクトリー)

現在もっとも チケットが入手しにくい演劇集団と言われる人気ユニット「TEAM NACS」の戸次重幸による2014年の小説集『ONE』(メディアファクトリー)は、いわゆるメディアミックス作品だ。ここには、「ダ・ヴィンチ電子ナビ(現・ダ・ヴィンチニュース)」で公開された6本の短編小説と、2014年初頭に上演された戸次のオムニバス一人芝居『ONE』のために書かれた戯曲が収録されている(戸次の一人芝居のチケットは即日1万2000枚が完売したという)。この作品は小説のストーリーと舞台上で披露されるストーリーがメディアの違いを超えてリンクする……というコンセプトのもとで企画されたようである。

企画コンセプトだけ聞くと(目新しくないものの)興味は引かれる。本書を手に取ると400ページ近くあり、俳優が出した初めての著作にしては、かなりのヴォリュームだ。なにより注目を浴び続ける演劇ユニットのメンバーが書いているというのも否応なく期待を持たせる……のだが、これがなかなかクセモノで、端的に言って全然面白くなかったのだ。小説も、戯曲も。

「小説×舞台」のコンセプトが活かせていない

チケットノルマに苦しむ劇団員(『チケットノルマ』)、他人のLINEのやりとりを盗み見たら内容が気になって仕方なくなってしまった男(『知らぬがホトケ』)、人間と入れ替わって人間の人生を生きる悪魔(『悪魔の先輩』)、貧乏神に呪われる男(『マンスリー呪い』)……など収録されているストーリーはどれもドタバタしたシチュエーション・コメディを基調としている(一本だけサイコ・ホラーあり)のだが、サラリとしていて何一つ引っ掛かりのないまま読み終えてしまった。

例えば「チケットノルマ」はこんな話だ。重いノルマを課す団長と劇団員のあいだに亀裂が生まれる。目前に控えた舞台の開催も危ぶまれるのだが、主人公は団長から演劇に対する情熱をぶつけられ、それを機に和解が生まれ、同時に演劇に対する主人公の気持ちが変わっていく。この短編には筆者自らの体験を反映したというのだが、それにしてはありがちな印象を拭えず、小説の元ネタになっている有名な話なんかがあるのでは?  という疑いさえ起こってしまう。

舞台『ONE』のDVD(アミューズソフト)は、まだ救われている。6本の芝居のなかでまったく違ったキャラクターを演じわける戸次の役者としての力を見せつけられるし、身振りや表情によって笑わせるヴィジュアルの強さもある。さすがの人気俳優、さすがの市川由衣のダンナである……と思ったけれど、いかんせん、本が弱いので見終わった後の感想も「良い役者なんだなぁ……」で終わってしまうのだった。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra

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