東京は新宿・ゴールデン街に10月23日、同月30日の2日間限定で「欠損BAR ブッシュドノエル」がオープンした。文字通り、脚や腕、指などが欠損している女性たち“身体欠損アイドル”がカウンターに立ち、お酒を作ってくれるというバーだ。1コマ1時間半の交代制で、各日3コマずつ設けられたが、どのコマも予約でほぼ満席という盛況ぶりをみせていた。
世の中には様々な趣味嗜好を持つ人間が存在する。店長を務める映像作家のsguts(スガッツ)氏は、“瓶底眼鏡”の女性、“歯列矯正”をしている女性、そして“身体欠損”の女性に対して愛着を感じるセクシュアリティの持ち主だ。自身でそうした女性たちの出演するDVDを撮影・制作。それぞれ3つのホームページを立ち上げ、これを販売している。今回は、欠損BARそして彼の性癖について話を聞いた。
7月に休刊した雑誌「BLACKザ・タブー」(ミリオン出版)に歯列矯正の女性を紹介する連載ページを持っていた縁で、同誌元編集長が欠損BAR実現に向けていくつかの店舗に掛け合い、ゴールデン街「からーず。」を2日間だけ貸切にして、オープンの運びとなったという。店内では女性客、男性客らが楽しげに身体欠損アイドルたちと話をしている姿が見受けられた。
「まず一日目が終わっての印象は、僕の運営しているサイトを見てくれているお客さんで、僕と同じ趣味嗜好を持つような方が半分ぐらいで、意外だったのはツイッターを見てきてくれたという女性だとかカップルとかがいたことですね。
身体欠損は、江戸川乱歩の『芋虫』なんてそういう話ですし、あと逆に若い子の欠損好きはおそらくアニメの影響が大きいとは思います。身体の半分が機械になっていたりする女の子が登場したりとか。昔よりそういう親和性は高くなっていると思います。潜在的にそういうのが好きな方はいらっしゃるんじゃないですかね」(sguts氏、以下同)
とはいえ、sguts氏の性癖は通常であればなかなか人に言えない類いのものであることは確かだろう。彼のサイトを見て来店した男性らも、同じ思いを抱えているはずだ。またそれを昇華することも容易ではない。sguts氏もサイトを立ち上げるまでは苦悩していたという。
「サイト立ち上げのきっかけというのが、これまで自分の抱えるセクシュアリティゆえの懊悩を昇華することが出来なかったからなんです。身体欠損の女性たちのDVDを制作したのも、商売としてというよりも、たとえこのDVDを世界中で僕しか買わなかったとしても、単純に僕のコレクションにはなるから、それでもいいかな、と。もしそれで僕と同じように好きな人がいて買ってくれるんだったら、またそれはそれでいいし……。当時はサラリーマンをやっていたので、そういうきっかけで始めました。なので、僕がこういうサイトを始めるまでは、それまで僕を含め、こうした趣味嗜好を持つ人たちが満足するものというのはそんなになかったと思います」
特殊な嗜好を持たない男女であれば、広く流通し容易に手に入れられるAVなどのコンテンツで充分だが、sguts氏や彼と同じ性癖を持つ男性たちは、そうはいかないのだという。
「それはもう本当に悶々とした中で想像をしたりとか、映画のワンシーンの2秒くらいに気になる女の子を見つけて延々と再生したりとか…そういう感じですよね。楽しくはないですね。
瓶底眼鏡を好きな人たちと話していて結構出る話というのは、たまにテレビで合唱コンクールの模様が放送されること、あるじゃないですか。あれって色々な……リアルな人が出ますよね。お酒を飲みながら皆で話しているときに、『それを録画してたんですよ』と、ある人がカミングアウトしたら、『えっ! 私もですよ』という人が出てきたりするんです。そういう、気持ち悪さが同じ感じです」
こうして得たお宝コンテンツを人知れず楽しみながらも、一方でこんな考えも常にある。
「ぼくはやっぱり正直、一般の人が感じる感覚と同じように、あまりそこに萌えてはいけないんじゃないか、という感覚もあったんですよ。ただ、じゃあ例えば、ドキュメンタリーでそういう(身体欠損につながる)事故の話なんかがあるじゃないですか。ああいうのを見ながら、当然それは辛い話なのでもちろんそっちの感情移入はするんですが、なんかモヤモヤとする感じがあったりとか、そういうのは常にありましたね。だから『こんなものに萌えるなんて、倫理的に最悪じゃないのか』と葛藤しながら、やっぱりずっと過ごしてたという部分はあります」
結果としてsguts氏の制作するDVDは、本人が当初に懸念していたような、“誰も買ってくれない”という事態にもならず、コンスタントに売れ続けている。同様の性癖を抱える消費者は、sguts氏が考えていた以上に多かったようだ。
今回、欠損BARでお酒を作る“身体欠損アイドル”たちは、sguts氏がDVD撮影を行ってきたモデルでもある。だが最初に、撮影をしたいとsguts氏が女の子たちに話をしても、なかなか応じてはくれなかったという。人間の身体の欠損部分に魅力を感じる男性がいるということを理解するには少し時間が必要だ。身体欠損アイドル当人たちにとってもそれは同じだったようだ。
「隠すべきものだとか、もちろん、人と違ってしまったという負の感情があるワケじゃないですか。でもそこに魅力を感じる人がいるんだよ、ということをまず伝えること自体が、やはり相当、僕として労力を最も割くところです。最初に撮ったモデルさんとかは1年半くらいかけて説得したんです。時には彼女の家のお風呂掃除までして(笑)。だから本当にそういう……泥臭いですけどやっぱり、長い時間をかけて説得しながらこちらの気持ちを伝え続けて関係を築き上げていって、今回ようやくこのような機会をいただくことができたと思っています。それは本当に、皆に、ありがたいなと感謝の気持ちです。興味本位であっても、皆がそれで何か考えてくれたりすればいいかなとは思いますけどね」
(牧本理沙)