売れに売れている1冊
お次はほっこり臭を感じた、『夢をかなえる人の手帳 2016』(藤沢優月/ディスカバー・トゥエンティワン)です。
〈累計160万部のベストセラー手帳〉というキャッチコピーに引かれ、ポチリと注文。だって、ひゃくろくじゅうまんですよ、ひゃくろくじゅうまん! どんだけすごいのか、大変気になります。
この手のものは、手帳と言いながらも書籍扱いであるので、〈まえがき〉が存在するのも特徴です。特殊枠だから、トリセツは必要ですよね~なんて思っていたら、この手帳では著者の自分語りから始まりました。田舎に生まれて自分がいかに窮屈な思いをしてきたか、もっと今を楽しみたいというお話。1年間、この話も持ち歩かなきゃならないと思うと、ちょっと嫌かも。
手帳の基本的な構成は、月ごとの〈気づき〉に満ちたコラムと実践すべき〈ワーク〉が約5ページにわたって書かれており、その後に月間スケジュール、時間軸のスケジュール、毎日のToDoリストと続きます。大きな特徴はおそらく、コラムの締めに毎回登場する〈今ここをあじわう〉というポエム。例えば3月は、こうです。
“今月も、意識して、「今ここ」の時間にとどまってみたら。
時間の感触はどう変わるだろう。
桜餅のピンク色、菜の花のグリーン。ほうじ茶ではなく、緑茶が飲みたくなる季節※。
私たちが唯一生きられる「今ここ」という瞬間。その瞬間を、意識して経験してゆくなら。私たちの日々の時間は、どれほど生き生きと感じられるだろう”
※ちなみに毎月、太字部分だけその季節にあわせたものに変わっていきます。
そして、〈感じたことを残しておこう〉と約1ページのフリースペース(という名の空白)へ……。巷には〈今この瞬間〉の自分の体験に注意を向けて、現実をあるがままに受け入れる心のトレーニング=マインドフルネスというものがありますが、それのほっこりバージョンといった印象です。たとえば今日の自分ならどうでしょう。玄関前の植え込みに生肉が隠してあって、カラスの賢さを感じた。原稿は1Pも進まなかったけど、夜明けの温かいコーヒーが美味しい季節! ……夢、叶うのか? 激務で心身ともに疲れた人が、ぼんやりしてえ……! となったとき、少しの現実逃避的に使ったらいいのかなと思いました。
どうやらこの手帳のテーマは〈今をていねいに生きよう〉です。〈夢をかなえる〉というのは、ベストセラー作家になるぜーとか、玉の輿に乗りたいわーとかではなく、〈等身大の自分が今感じられる幸せをかみしめて、充実した時間を過ごしましょうね〉ということでしょうか。この手帳は、もの凄く自分が大好きで〈こんなことしている瞬間の私も、素敵〉と酔えないと、なかなか使いづらそうです。
冷えとり界が手帳にも進出
前出の冷えとりの女王も、もちろん手帳界に参戦です。昨年まではアスペクトから『セルフクリーニングダイアリー あたらしい自分になる手帳』が発売されていましたが、今年はリニューアルバージョン『わたしの手帖 2016』(服部みれい/エムエムブックス)を、自社であるエムエムブックスから発行。編集部を都心から岐阜県美濃市に移したマーマーマガジン、本腰を入れてコミューンを作り、ジワジワ俗世から遠ざかっていく前兆でしょうか。
さて肝心の手帳は、〈自分と打ち合わせッ〉とある帯の背中で、まずはひと笑い。〈だよネ!〉の例でよく知られる、語尾をカタカナにする懐かしの昭和文体がお好きなみれい先生ですが、手帳のテーマは〈本来の自分に戻っていく〉ですから、昭和生まれとしては間違っていないのかもしれません。