「家族は互いに支えあうのが当たり前」が問題を隠す
上原を例に具体的な話を紹介します。
ひとつめは、数年前の上原のケース。当時、中卒キャバ嬢だった上原は、娘ちゃんと祖母宅に住んでいました。母と弟は別の家で暮らしているけど、週末の夜になると、夜働いている上原のかわりに、母が祖母宅に来て娘ちゃんの面倒を見ていました。歳が3年離れている弟は中卒で水商売をしたり、しなかったりとふらふらしていました。上原が何かの支払いでお金が足りなくなると、叔父から借りるか、母に支払ってもらっていました。簡潔にまとめると、みんな別々に暮らしているけど、サラリーマンの母と専門職の叔父の2人に、上原、娘ちゃん、祖母、弟の4人が経済的に支えられていたわけです。
ふたつめは、上原が大学に通い始めた現在のケース。ひとつめと同じくメインとなる収入は母と叔父だけでした。ただ、上原が大学を卒業してしまえば母のコネで、県内ではお給料が良い、安定した企業に就職できちゃう、という状況です。まあ、母に学費の半額を払ってもらっているけど、残りの半額と生活費は上原が自分でどうにかしています。……まあ、なかなかギリギリの状況です(苦笑)。
ひとつめとふたつめの10年後、20年後を比較したとき、母や叔父が退職した後に安定した生活を送れるのは明らかに後者でしょう。だから上原家は、母と叔父の経済状況を考えれば、めちゃくちゃヒドい状況は避けられると思います。持ち家だからいざとなれば売ればいい。
でも沖縄でよく目にする家族は前者です。上原の周りにいる、親族支援を受けているシングルマザーを見ると、母と叔父くらい安定した職に就いている親族から支援を受けている人は、ほとんどいません。しかも、持ち家だったら超ラッキー。めったにいないのが現実です。
そういう家族も「親族支援」を受けているといえば受けていることになります。でも実際は、家族数人が一人月10万円くらいずつ稼いで、そのお金を合わせてギリギリの生活をしているんです。人数が多ければ多いほど食費、家賃、光熱費はかさみます。いつ誰が病気になるかもわからないし、不安定な仕事に就いているパターンも多い。そんな状況から抜け出すのはとても難しいと思います。一体いつ自立できるんでしょうか……。
家族数人で支え合える生活がいつまでも続くわけがないと思います。家族が歳をとったら世代交代して、「親族支援」を受けていた子どもが、これまで「支援」してくれていた親や家族を養うことになります。でもその世代は、きっとより困難な状況になってしまう。親が現役だった頃の収入より年金のほうが少ないだろうし、だってその頃には親の稼ぎはほとんどなくなっているし、子どもも若い頃と同様に不安定な仕事をしている可能性が高いですから。
沖縄を語るとき、「血縁」が良いキーワードとしてあげられることがあります。でも「血縁」の強さは、必ずしもいいとは限りません。いまお話したように「血縁」でお互いにギリギリ生活しているだけなのに、そのことを「親族支援」と見られてしまう。これを放置していたら、貧困を世代間連鎖させてしまうんじゃないかと思います。「家族は互いに支えあうのが当たり前」という価値観で問題を覆い隠してしまうことは、単に問題を先送りにしているだけで、各家庭の貧困問題はどんどん深刻で複雑なものになっていくでしょう。
これって「貧困問題あるある」じゃない?
今回、沖縄の話をしたのは、「三世代同居したら育児/介護してくれる人がいるしラッキー」とか、「親元にいるシングルマザーなら何も問題ないだろ」とか、そんな単純な話ではないですよ、と伝えたかったからです。
きっとこれは沖縄だけの話ではなくて、地方の「貧困問題あるある」なのではないでしょうか? 上原だって将来的には、病気がちで、アルバイトを続けられなくて、「血縁」を頼りにしている弟の経済的援助をしないといけない日が来るかもしれません(涙)。娘ちゃんがいるのに……。
上原だって「わあーい♪ ママが半分は学費出してくれるんだって♪」と、手放しで大喜びしたいところですが、最近になって「修士課程までなら学費の半分は出すよ。ただし、大学院は国立ね。35歳までに卒業して、コネで良いから就職すること」という条件を付けられました。母の監視下から逃れるために非行していたはずが、27歳になって進路を決めるのに母のリクエストを聞き、コネ就職を提案されるなんて……人生色々ですね(白目)。
まあ今は、しっかり母の脛を齧って!! 齧りまくって!!! 弟の件は先送りにして、娘ちゃんのためにも、上原だけは自立できるように頑張ろうと思います♡
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