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若年世代に「止むを得ぬ伝統回帰」を迫る、伝統的家族推進派の厚顔無恥

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Photo by Kevin Cramer 2012 from Flickr

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 今年9月に安倍首相が打ち出した「新三本の矢」には、第二の矢として「夢をつむぐ子育て支援」が掲げられ、「希望出生率1.8」の実現がターゲットとされています。

 あまりに非現実的な目標であるとして、報道直後から批判の多かった「希望出生率」ですが、そもそもこの言葉は1年ほど前に提唱された造語でした。

 よく聞く「合計特殊出生率」は、一人の女性が一生に産む子どもの数のことで、先進国では2.07が人口維持に必要な水準だとされています。日本は長らく低落傾向にあり、昨年の2014年時点では1.42でした。一方の「希望出生率」は言葉通り「国民の希望がかなった場合の出生率」を指す造語。民間の研究機関である「日本創生会議」が、2014年5月に発表した「成長を続ける21世紀のために ストップ少子化・地方元気戦略」が出自とされています。

 ここで重要なことは、「国民の希望」であるという点です。「国の希望」ではない。「ストップ少子化・地方元気戦略」でも、「結婚をし子どもを産みたい人の希望を阻害する要因(希望阻害要因)を除去することに取り組む」「『希望出生率』はあくまでも政策が適切かどうかの『評価指標』として活用すべきで、国民に押し付けたりするようなことがあってはならない」と、「子どもを持つことを希望する人を阻害する要因の除去」「国が国民に押し付けるものではない」ことを強調しています。

 冒頭で紹介した安倍首相の「新三本の矢スピーチ」では、「希望出生率」がどのように語られていたのでしょうか。少し長くなりますが、一部引用をします(強調は筆者による)。

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…希望出生率1.8の実現です。多くの方が「子どもを持ちたい」と願いながらも、経済的な理由などで実現できない残念な現実があります。待機児童ゼロを実現する。幼児教育の無償化も更に拡大する三世代の同居や近居を促し、大家族で支え合うことも応援したいと思います。さらに、多子世帯への重点的な支援も行い、子育てに優しい社会を創り上げてまいります。「子どもが欲しい」と願い、不妊治療を受ける。そうした皆さんも是非支援したい。「結婚したい」と願う若者の、背中を押すような政策も、打っていきたい。誰もが、結婚や出産の希望を叶えることができる社会を、創り上げていかなければなりません。そうすれば、今1.4程度に落ち込んでいる出生率を、1.8まで回復できる。そして、家族を持つことの素晴らしさが、「実感」として広がっていけば、子どもを望む人たちがもっと増えることで、人口が安定する「出生率2.08」も十分視野に入ってくる。少子化の流れに「終止符」を打つことができる、と考えています。教育再生の主役は、「子どもたち」であります。https://www.jimin.jp/news/press/president/130574.html

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 希望しているにもかかわらず、経済的な理由で子どもが持てない。待機児童など社会的な理由で子どもが持てない。そういった要因を除去することで、安心して結婚・出産・育児のできる社会を実現していく。これはほとんどの人が同意するかと思います。ただ問題は、直後に続く「三世代の同居や近居を促し、大家族で支え合うことも応援したいと思います」という一文です。

 messyでもさんざん取り上げられているように、現政権は「三世代同居」を推進しており、同居のためにリフォームを行った場合、所得税や相続税を軽減する、といった政策を検討しています。これは「産みたい人の希望を阻害する要因」ではないでしょう。「親・祖父母世代と同居したいけど、できない」という人よりも、「経済的な余裕がないために実家を出ては暮らせない」という人がほとんどなのではないでしょうか? これは「(希望出生率1.8を実現するために)三世代同居を押し付ける」と言えるかと思います。

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