インタビュー

仮面を脱がない男、わかってほしい女。隣人たちの群像劇『ハッピーアワー』をどう見るか

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HappyHour

『HappyHour』(C)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト

 5時間を超える大作映画『HappyHour』(以下、ハッピーアワー)をご存知だろうか。

 市民参加による「即興演技ワークショップ in Kobe」から誕生した作品で、演技経験のない4人の女性たちが、ロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで話題となっている。主人公となる4人の女性以外も、ほとんどの登場人物を演技未経験者が務めた。だから彼女たちはちゃんと年相応に老けていて、髪がベタついている夜のシーンもあれば、とびきり美しく見える瞬間もあって、非常にリアルだ。

 神戸に住む30代後半の一般女性4人を主軸にして流れるストーリーは、単純ではない。彼女らの家庭や仕事、日常生活が淡々と描かれていき、少なからず隣人の人生を覗き見しているような気分にもさせられる。宇宙人は襲来しないし誰も難病にかからないし奇跡も起こらない。だが、いまここに生きる私たちの日常だって、決して単調なものではない。むしろ人一人の数日間を映像化しようとしたら、複雑怪奇なものが撮れてしまうのが普通なのではないかと思わされた。カメラを通すと、ただの飲み会がこんなにも緊張感あふれる映像になるのかという驚きもある。

 最初に主な登場人物を紹介しておく。ごくごく平凡に生活を営む4人の女性たちだが、それぞれにそれぞれの悩める事情を抱えている。

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純 (演:川村りら)

 純はもう1年近く離婚裁判中。純は夫とやり直す意志がなく、年下男性と浮気もするが、夫の方は離婚を望んでいない。純を許すと言い、婚姻生活の継続を求めている。だが純は「もう愛していない」と頑なに離婚を押し通す気で、裁判でも、夫には非がないにもかかわらず「あることないことでっちあげて」いる最中だ。こう書くとヒステリックな女性をイメージするかもしれないが、彼女の表情も口調もいやに冷静で、そのぶん、何を考えているのかわからない。だが相当、疲弊している様子であることだけは伝わる。彼女の離婚裁判を友人たちが傍聴するシーンは、見ているのがつらくなる。

長身ショートカットのあかり (演:田中幸恵)

長身ショートカットのあかり (演:田中幸恵)

 竹を割ったような性格の看護師・あかりはバツイチ。夫の浮気が発覚し、スッパリと別れた。現在はシングルファザーの男性から交際を求められているが、まだ喜んで受け入れられるような心境でもない。純が不倫をして離婚裁判中であることを知り、激昂。純を「自分勝手だ」と罵る。声も態度も大きく気性の荒さが目立つが、几帳面で真面目な性格なのだと思う。ミスの多い後輩ナースの指導に苦慮する様子からも伺える。

桜子 (演:菊池葉月)

桜子 (演:菊池葉月)

 おっとりした性格で容姿も女性らしく可憐な桜子。専業主婦で、中学生の息子・旦那・旦那の母親と4人暮らしをしている。旦那は公務員なのだが、いつも“仕事”で帰りが遅い。あまりに深夜帰宅が続くので、浮気を疑う気持ちも一瞬芽生えていた様子だ。4人の中で唯一、純の離婚裁判についての相談を受けていた。家の外のことは夫、家の中のことは妻、という線がきっちり引かれた家庭で、息子が起こした問題について苦悩する。

芙美 (演:三原麻衣子)

芙美 (演:三原麻衣子)

 芙美は多忙かつ自由人な編集者の夫(ヒゲと長髪)と二人暮らし。ワークショップを企画・開催するキュレーター職に就いている。攻める姿勢のキャリアウーマン、といった印象ではないが、仕事にプライドを持って取り組んでいる。夫と不仲なわけではないもののなんともいえない寂しさを抱えているが、言葉にできない。夫との間に薄い膜のようなものがあるのでは、とあかりに指摘される。

 彼女たちがそれぞれに持つ小さな、あるいは人生を左右する大きな悩み。それは誰にもわからないかもしれないし、誰でも共感し得るものでもある。前半のクライマックスといえる純と夫の法廷シーン。平穏だった桜子の家庭に立つ波風。しっかり者のつもりだったあかりの失敗。そして夫がプロデュースする若く可愛らしい女性作家に嫉妬を覚える芙美。

 登場する男たちの心の動きは、いまひとつ掴めない。仕事熱心で常識人らしい、桜子の夫。どうしても離婚を認めない、純の夫。あかりに「娘の母親になってほしい」という男。馴れ馴れしい、あかりの元夫。美味しいカレーをつくってくれる、芙美の夫。芙美のワークショップを通じて4人と関わりを持った鵜飼という飄々とした変わり者の男。ワークショップにやってきてバツイチ経験を話す男。

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