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惹かれ合う男女は実は守護天使で…お花畑一直線な中山美穂 『アタシと私』

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中山美穂『アタシと私』(幻冬舎文庫)

中山美穂『アタシと私』(幻冬舎文庫)

 

これまで半年にわたって隔週でお届けしてきた本連載「『芸能人小説』から小説へ」は今回が最終回となる。最終回は、メディアに登場しては芸能ゴシップメディアからバッシングの声があがっている(というか、最近は、ネットニュースが『ネットで批判轟々』とあたかも世論をすくい上げるようにしてネタにしている)中山美穂の小説『アタシと私』(幻冬舎)を取り上げよう。なんでも1997年に刊行されると1カ月で発行部数が10万部に達したという、最後にふさわしい(?)ヒット作である。

作品に触れる前に本作が書かれた時期の中山美穂がどういうタレントだったのかを簡単に振り返っておこう。まず、歌手としてのミリオンヒットが2曲(『世界中の誰よりきっと』、『ただ泣きたくなるの』)、さらには岩井俊二の映画などに主演し、女優としても評価を高めていた。歌手としての絶頂期と、大人の女優としての成熟期のなかで、本作は「小説家」として踏み出した新たな一歩として見ることができよう。マルチな才能を持つアーティストとして活躍していきたい、みたいなやる気があったのかもしれない。

ファンタジー小説として受け取るしかない

しかし、なんとも扱いにくい作品ではある。舞台は明言されていないが、アメリカの都市(サンタバーバラ?)で女性ジャズ歌手の《アタシ》とジャズ・ベーシストだったらしい《私》の男女の出会いを描いたファンタジー……とでも言えるだろうか。《アタシ》と《私》の独白が交互に続く構成は、村上春樹のようでもあるのだが、ふたりが見る夢の場面と現実の場面との境界が至極曖昧で、物語でなにが起こっているのかがひどくわかりにくい。世界観の説明がほとんどないので、このわかりにくさを読者は、そのまま「なんかフワッとしたファンタジー」として受け取る他ないだろう。

唯一ちゃんと説明されているのは、《私》のアパートの隣に住む年老いた男女が、実は「守護天使を守る天使」であり、《アタシ》と《私》はそれぞれ天界によって選ばれたガブリエルとミカエルという新たな守護天使らしい……のだ。新たな守護天使の誕生を見守る年老いた天使たちは、壁の穴から《アタシ》と《私》がイチャイチャしているのを監視している(怖い)。

頭のなかでお花畑がいっぱいになってでもいない限り、とても書けない話である。そのファンタジー具合は、渡辺満里奈が10代で書いた小説『ことづて 新しい気持ち』にも通ずるが、これを書いていた当時の中山美穂は27歳ぐらい。「天使」とか言ってたら間違いなく、スピリチュアルな人扱いされる年齢であろう。元夫である小説家、辻仁成はこの作品を読んだだろうか。読んでいたとしたら、どんな感想を中山に伝えただろうか。ぜひ、渋谷慶一郎にも読んでいただきたいところである(最近、破局したようだが)。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra

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アタシと私 (幻冬舎文庫)